『恩返し』の相手、タクムくん

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『分かるよ、君の気持ち』  優しい声。その声を聞いて、思わず顔を上げる。  目の前にある、きれいなタクムくんの顔。近すぎて思わず……。 『ぎゃああああっ』  キツネ耳を出してしまったんだ。あわてて耳をおさえる。けれど、小さな手では隠しきれない。  タクムくんは一瞬、目を見開いた。でもすぐに笑って言った。 『大丈夫。誰にも言わないよ』 『ほ、本当?』 『うん、本当。……その代わり』  タクムくんは、笑った。 『時々ここで、僕と会ってくれるかな』  それから時々、あたしとタクムくんは会って話をした。  タクムくんはあたしに、学校での話を色々聞かせてくれた。だけど……。  数か月経ったある日、タクムくんは悲しそうに言ったんだ。 『僕、明日引っ越すんだ。おじいちゃん家に行って、シュギョウする』 『シュギョウ……? シュギョウって、何?』 『たくさん学んで、がんばるってことかな』  そう説明されたけど、何をがんばるのか、あたしにはあまり分からなかった。  でも、タクムくんと会えなくなるということだけは分かった。  彼と過ごす時間をとても大事に思っていたから、ショックだったけど。  その日、学校で『恩返し』について学んだあたしは、とっさに言った。 『それじゃあたし、学校を卒業したら、タクムくんに【恩返し】をしに行く!』  あたしは、タクムくんに『恩返し』について説明する。 『【恩返し】っていうのはね、あたしたちみたいな先祖返りがする約束みたいなものなんだ』 『約束……』  タクムくんが首をかしげる。 『あたし、タクムくんにたくさん助けられた。だから、今度はあたしが助ける番』  あたしは、タクムくんに言った。 『だから、タクムくんは、シュギョウがんばって。あたしはあたしで、シュギョウがんばるからっ』  シュギョウという言葉が、何かをがんばるってことなんだとしたら、あたしも先祖返りにふさわしくなろう、がんばろうって、そう決めたんだ。
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