『恩返し』の相手、タクムくん

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「タクムくん!!!!?」 「おやぁ、知り合いかい?」  狸山先生が、興味深げにあたしに聞いてくる。 「あたしの初恋……じゃない、『恩返し』の相手なんです」  正直に言うと、狸山先生は大きく目を見開いた。 「おやおやぁ。その年で、もう『恩返し』相手が決まっているとはね。うらやましいよ」  狸山先生が、からかうように言う。 「……ま、彼は先祖返りといっても、ほぼ人間に近い存在だけどねぇ」 「人間に近い……」  あたしが首をかしげたのを見て、先生が目をさらに細める。 「詳しいことは、本人から聞きなよ。といっても、話してくれるかは知らないけどねぇ」  先生は面白そうに笑う。そんなに、彼から聞き出すことが難しいのかな。  そう思っていたら、教室の前についていた。先生が先に教室に入る。 「遅くなってごめんよぉ。転校生を紹介するねぇ。といっても、入学式が終わってまだ数日、新入生も転校生も似たようなもんだけどぉ」  先生に手招きされて、私も教室に入る。 「は、初めまして。狐塚小春と言います。よ、よろしくお願いしますっ」  今日から、新しい生活が始まる。何事も、始めがカンジンだよね!  周りを見回していた時……、見つけた!  窓際のはしっこの席。そこに、彼はいた。  数年経って、さらにかっこよくはなっていたけれど、間違いない。タクムくんだ!  あたしの視線の先を追って、先生はにやっと笑った。 「ちょうど、阿川のとなりの席が空いてるからぁ、そこに座るといいよぉ」 「先生、ありがとうございますっ」  うれしい! タクムくんがそばにいるのなら、もう大丈夫!  慣れない場所でがんばれるか、不安だったけど!  タクムくんと再会できたあたしは、百人力だ!  席について、彼をちらりと見た。だけど、タクムくんは知らん顔。  あれ……。もしかして、あたしのこと、覚えてない……?  いやいや、そんなことないよね! 『恩返し』の約束したもん!  でも……。ちょっと不安。だってもう、六年も前の話だから。  どうやって話しかけよう? そんなことを考えていたら。  一時間目の授業は、先生の話がまともに入って来なかった。  休み時間になった瞬間、タクムくんに話しかける。 「タクムくん……」  すると、彼はとても迷惑そうな顔をこちらに向けた。 「いきなり、何? ……オレたち、名前で呼びあうほど仲がいいワケ?」 「え……」  その表情は、どう見ても冗談には見えない。 「あたしのこと、忘れちゃった? 狐塚小春だよ。小学一年生の時に……」 「そんな小さい時のことなんか、覚えてねぇよ」  冷たく言われて、あたしは固まる。覚えて、ない……。  今日、学校に来るまで考えてもいなかった。タクムくんが、あたしのことを覚えてなかった時のこと。 「オレに話しかけたいからって、ウソ言ってるんじゃねぇの?」 「そりゃっ! タクムくんは確かにかっこいいけど! ウソなんて言ってない!」 「そこは、認めるんだ……」  どこか呆れた様子のタクムくん。でも冷たい表情には変わりない。  言い返しながら、悲しい気持ちになる。  タクムくん、あたしの知ってるタクムくんとは、別人みたい。  昔は、あんなに優しく笑ってくれてたのに。やっと会えたのに……。 「あ、あきらめないもんっ」 「はぁ?」 「タクムくんに思い出してもらうまであたし、あきらめないからっ」  忘れられていたのはショックだけど! 忘れられたなら、思い出してもらえばいい。  だって、これからの中学校生活は長いし、クラスメートになったんだから!  
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