『恩返し』の相手、タクムくん

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「タクムくんタクムくんっ!」 「……うるさい。名前で呼ぶな」  それからあたしは、タクムくんと一緒に行動した。  教室移動の時や休み時間も、ついて回った。  そこで、分かったことがある。  ……タクムくんは、他のクラスメートの人たちと、仲がよくないってこと。  他のクラスメートの男子より明らかに、タクムくんはかっこいい。  それなのに、女子たちがタクムくんに寄って行かない。  それに男子の中で仲のいい男子も、いないみたい。  彼は休み時間も移動教室の時も、一人で過ごしていたんだ。  まるで、先祖返りの小学校に通っていた時のあたしみたい。  卒業するまでの間ずっと、あたしは『ダメギツネ』のままだった。  周りにからかわれて、友達って呼べる人もできずに終わった小学校生活。  今度は、友達を作って楽しい学校生活にしようと決めて、ここへやってきた。  タクムくんと、新しくできた友達と幸せに過ごすあたしの、学校ライフ!  そのためにも、あたしがまずはタクムくんと仲良くなって、他の友達を増やしていかなくっちゃ! 「……ほんと、あきらめが悪いやつだな……!」   放課後。タクムくんにくっついて、下校しようとしていると彼が言った。 「言ったでしょ、思い出してもらうまで、あきらめないって」  あたしの言葉に、タクムくんが冷たい声で言う。 「だったらオレも、何度だって言う。オレはお前なんて、知らねぇ」  あたしの知ってるタクムくんは、優しくておだやかで、いつも笑顔だった。  でも今あたしの目の前にいるタクムくんは、冷たくて、楽しそうじゃない。 「どうして、こんないじわるな人になってしまったのおおおぉぉっ!?」  あ、思わず心の叫びが出てしまった……。タクムくんもびっくりしている。 「あたしはただ、タクムくんに『恩返し』がしたいだけなのっ」  昔の、おだやかで優しかったタクムくんの役に立ちたい。それだけなのに。  思わずうつむく。すると、声がふってきた。 「……本当に、オレの役に立ちたいって思ってるのかよ」 「当たり前でしょ。あたしは、そのために今までがんばってきたんだから」  そう言うと、タクムくんは小さくため息をついた。 「……なんでもするって誓えるか?」 「なんでも……?」  少し戸惑う。だけど、タクムくんは今日会って初めてあたしをまっすぐ見つめてきていた。 「……うん、それがタクムくんの頼みなら」
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