運命とはなんぞや

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運命とはなんぞや

冬夜は自分のグラスを持ち、春夜の隣に無言で座った。 春夜も何も言わない。 スローなジャズとマスターが扱う氷の音だけが響く。 ふたりの距離は固定された椅子の隙間分…見つめ合う事もなく、話してもいないのに… 周りはとても騒がしいのに、ふたりだけが切り取られたようだった。 並んで座るふたりに気付いた客が、ほうっと溜息をつく。 額縁に入れて飾りたい…誰かがそう言った。 ガッシャーン その空気を壊したヤツがいた。 そいつはツカツカと冬夜のとこまで行き、声を荒げる。 【トーヤってば、まだその人の尻追っかけてんの?無駄だって言ったじゃん!】 『ん?お前誰だ?』 カァっとソイツの顔が赤くなる。 【その人はマスターの恋人なの!僕、後付けて同じマンションに入ってくの見たんだから!】 冬夜は咄嗟に春夜の横顔を見る。 ガン無視だ、聞こえてないのか? ついでマスターの顔を見ると、少し困ったような笑顔。 冬夜ははぁ…とため息を吐き怒りでプルプル震えるソイツに話す。 「お前それ、ストーカーって言うの、犯罪だよ?」 そいつは急に青ざめる。 【いや、僕は、トーヤの為に…】 やっと春夜が口を開く。 「別にいいけど?同じマンションに住んでるのは間違いないから」 【ほら…ね?トーヤ…僕と行こう?】 『だから、お前誰だよ?』 【本気で言ってるの?あんなに僕のこと抱いたくせに…可愛いって何度も言ったくせに…】 「お前、サイテーな」 『春夜は黙ってろ。なぁ、俺はお前を抱いたのかも知んねーけど?俺はヤル前に一回限りだと約束したはずだ。好きになるなとも言ったはず。その約束に頷いたヤツしか抱かないと決めてるからな』 【だけど…好き…なんだ…】 『悪いけど、その気持ちには答えられない』 【シュンヤさんが好きなの?マスターの恋人なのに…】 『っ…それは…』 「バカ、そこは否定しろ。ねぇ君さ、こんなヤツやめといた方がいいよ?サイテーなヤツだと思う。もっといい人見つかるよ」 『おいコラ、お前が言うな』 「あとさ…これは秘密なんだけど…ゴニョゴニョ…」 【え?ウソ?ふふ…そうなんだ…残念だったねトーヤ…うふふ…ザマーミロ。じゃね?シュンヤさん!】 急にニコニコし、会計を済ませて店をスキップで出て行った。
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