紛失物

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一通り店員さんが壊れた食器を片付け終わった頃、配膳ロボットが沙耶香のたらこクリームスパゲッティと、祐のサイコロステーキを運んで来た。 「なにこれ。」 「知らないの?配膳ロボットよ。」 「けっこう離れた所で止まってるじゃん。配膳って。客が立ち上がって、料理を取るって事だっけ?」 「最近のファミレスはそうなのよ。だから安くて済むんでしょ。」 「そっか!ん…、でもさ、なんか素っ気ないよな。」 「まぁ、良いんじゃない。店員さんに会話の邪魔もされないしさ。」 「うん、ま、そっか。ものは考えようだな。会話が止まる。なんて事は無いもんな。こういう事にもそのうち慣れるよな。」 「そうそう。」 文句を言っても、素直な祐は立ち上がって、沙耶香のパスタを先に目の前に置いてくれる。 「…イヒヒ。」 「………、なに今の?今、笑い声聞こえなかった?しかも男の…。」 祐の顔が曇る。 「えっ?聞こえなかったよ。」 沙耶香にも聞こえたが、とぼけた。祐の誕生日だからだ。これがもし、なにか霊的なものだとしたら、知らないふりをした方がいいように思えた。 「…イヒヒ。」 沙耶香は飛び上がるほど驚いた。身体はビクンと反応した。祐と目が合う。言い逃れは出来そうもない。祐に嘘をついた事を反省した。それとは反対に、嘘をつかなくて良い事に安心したら、涙が出てきた。 「わぁーん!」 と、沙耶香は泣きながら祐に抱きついた。 「大丈夫だよ。なんでもないよ。」 そう言う祐も震えている。 「ほら、聞こえたろ?」 「わぁーん!最初から聞こえてたの!祐の誕生日だから、聞こえないふりをしたの!」 祐の震えはぴたっと止まって、沙耶香を強く抱きしめて、頭を撫でる。 「大丈夫。大丈夫だよ。サーちゃん大丈夫だよ。」 祐は子供の頃の頃の呼び名で沙耶香を呼ぶ。その時だった。 ガッシャーン! 今度はテーブルの上の料理が、一旦宙に浮かび床に投げつけられた。いや、誰もいない。しかし、まるでそこに誰かがいるような不自然な食器の動きだった。 しかし、今度こそ店員が血相を変えて、沙耶香たちのテーブルに駆け寄った。 「お客様!どうされました!」 言葉こそ丁寧だが、店員はあきらかに怒っていた。
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