木偶坊豪慶

5/10
前へ
/363ページ
次へ
「なんだかんだで、けっこう消費出来るものねぇ。」 多いと思った"朝食"がほとんど無くなっているのを見て、村崎は感心している。 「でしょー!」 東條は満足気だ。 お蔵の二人がまた芝居を始める。 「それはランスロット。我々が増えたからに違いない。」 「余りものは俺に任せろ。思い切り食い散らかせ円卓の騎士たちよ!」 「ありがとうランスロット!」 「我が王の未来のために!」 「あははは。」 笑ったのは、さっきの茶番劇を見逃した武藤綾だけだった。 「はいはい。すべりかけた空気を、沙耶香のお母様に救われて、良ぉございましたわね。」 と、東條由樹がからかう。 「で、あんたたち騎士(ナイト)は、この一宿一飯の恩義に、どう応えるつもりなのよ。」 力田と大西は顔を見合わせて、口角を上げる。 「一宿一飯ではないけどな。一飯ね。ただの一飯。」 「ちょっとした結界を張りに来たのですよ。」 力田正明が含みを持たせる。 「結界?」 東條の問いかけに応えるように、大西良治は鞄の中から、除菌シートやら、コロコロや雑巾などの清掃用具を取り出す。おもむろに窓を全開にして、暖かな陽射しとまだ肌寒い外の空気を室内に取り込む。皆が食べ終えたごみを集めて、廊下のゴミ箱に投げ入れて、病室の隅々まで掃除して廻る。窓ガラス、窓の桟、患者用の水屋の引き出しの一つ一つを開けて、隅々まできちんと拭き取り、さらには乾拭きの雑巾もかける。備え付けのライトまで2人は丁寧に埃を拭き取る。カーテンや枕カバーやシーツなどには、アルコール除菌スプレーを吹きかける。一通り掃除を終えると、   「掃除をきちんとすると言うのは、一種の魔除けにもなります。結界を張る一つの手順です。」 そう言って、大西良治(よしはる)は鞄のさらに奥から数枚の紙の護符を取り出す。 すると豪慶が口を開く 「おう。これはこれは…」 「そうです。日本最強とも言われる比叡山横河の角大師(つのだいし)の御札です。」 すると…あら不思議。 「う、ううん。」 武藤沙耶香が目を開ける。 長い眠りからようやく目覚めた。 「はい。おはようさん。」 武藤綾が娘に、いつもと同じ、朝の声をかける。
/363ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加