1人が本棚に入れています
本棚に追加
第三話 未知数
いったい何が起こったのか、どう考えても分からずじまいだった。
僕は悪い意味で時の人になった。
生徒の中には教師の見ていないところで蹴りを入れてくるヤツもいる。
周りの生徒だけでなく、近所の大人ですら、僕を目にすると眉をひそめて例の子だと噂話をしたりする。
「まだ起きてたの?」
薄暗い部屋でぼんやりとしている僕に母が声をかけてきた。
父も母ももちろんあの日神社でいなくなったクラスメイトたちのことを気に留めているが、それよりも当たり前だが息子の心配をしてくれているので、自分は愛されているのだなと実感できる。
そろそろ寝ると言う僕に、母は無理をしなくていいからねと言ってドアを閉めた。
家族や教師、ほとんどのクラスメイトたちは言葉を選んで僕に接してくれる。
体調がすぐれなければ学校を欠席してもいいとも言ってくれる。
皆わからないのだ。
身近な人間が揃って6人も失踪した経験が初めてなので、周りも僕もどうしたものかと困惑している。
昨日はあの日姿を消したクラスメイトの母親の一人から校門の前で、本当のことを話してと詰め寄られた。
両親からは、あなたは何も悪くないのだから堂々としていればいいと言われたが、この先自分に声を上げて笑えるような日が戻ってくるのだろうかと不安になる。
「どうぞお帰りください」
僕の家にはテレビなどの報道陣が来ることもあり、母が丁重に対応しているが、疲弊しているのがよくわかり、申し訳ない気分になってしまう。
あの日僕が一人で帰宅したことは間違った行動だったのだろうか・・・。
膝に刺すような痛みを感じて僕は目覚めた。
先ほどまで神社でかくれんぼをしていた仲間とははぐれてしまったのだろうか。
周りに誰の姿も見当たらない。
「だ、れか・・」
声を絞りだしてみたが、思ったより喉がかすれている。
「桔平・・」
彼は無事だろうか。
皆でふざけて桔平を騙そうとしたしっぺ返しをくらっているのだろうか。
なんとか自力で立ち上がると、僕は周りを見渡した。
先ほどまで神社にいたはずなのに、どう見ても草の生い茂った森の中にいるようだ。
いったい何が起こったのか・・。
桔平を含めた他の6人はどこへ消えてしまったのだろう。
静まりかえった草木の間をよろよろと歩き、耳には自分の荒い呼吸しか聞こえてこないことに気が付いた。
神社でのドッキリは失敗に終わったのだろう。
膝だけでなく体中が痛むし、満身創痍の今の状況が、くだらないいたずらを考えた奴らに怒りを覚えさせた。
自分の立場を守るために桔平にドッキリを仕掛けることに加担してしまったが、やはり間違っていたのだ。
「光希・・」
あてどなく長い草をかき分けて歩いていると、幻聴のようなものが聞こえた。
「桔平?」
他のやつらはともかく、彼だけでも無事でいてほしいと、心の底からそう願った。
最初のコメントを投稿しよう!