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2・デズデモーナの逆襲
翔之介の企みは、今やとんでもない岸に流れ着きつつある。
ジョジョが現れたのは、ハッキリ言ってとんだ計算外だったが。まさかユキがこれほどの敵意をあらわにしようとは、思ってもみなかった。
ジョジョが戻って行ったテーブルに、キツイ視線をくれた後は、完全無視の態勢を取った。大人の世界になど負けないと言う意思表示らしい。
運ばれてきたステーキに力強くフォークを突き刺すと、ナイフでぐっさりと切り分けた肉を、黙って口に押し込んでいる。
「ユキ・・」、翔之介の口から弱々しい声がもれた。ユキの低気圧が膨らんでいくのが解る。
それにしてもユキは、いったい何処でジョジョのフルネームを知ったのだろう。さっきの様子では、ジョジョが翔之介とどういう関係にあった女かも知っているようだった。
二人の間に気まずい空気が流れる。
翔之介は詰まらぬ企みをした事を、心の底から後悔した。まさか自分の放蕩時代をユキが知っているなんて、今まで思ってみたこともなかったのだ。
海鮮料理が運ばれ、サラダが運ばれ、やがて傘をさしたフルーツとアイスクリームのデザートが運ばれてきた。
黙って食事を終えたユキの眼に溢れでた涙が、珈琲の中にこぼれ落ちる。
「翔之介さん、もう帰りたい・・」うつむいて呟くように、かすれた声を押し出したユキの顔が、蒼ざめている。
その時になってやっと、翔之介はユキがまだ十八歳の多感な年頃だと言う事に思い至った。
新婚の夫のかつての愛人が、テーブルに挨拶に来る。どう考えても普通じゃない、耐えがたい屈辱だったに違いない。
ユキに済まない事をしたと、心から反省した。
大事なユキを傷つけてしまった。
切り裂かれるほどの後悔が心を咬む。そっとユキを腕の中に包み込むと、そのままレストランを後にした。
ホテルの玄関に待たせておいたロールスロイスにユキを乗せると、別荘に帰るように指示を出したのである。
運転手が訳知り顔で頷くから、この件がそれなりに噂になっていたのだと気が付いた。運転手は何時ものように、ホテルの従業員たちの休憩室にいたのだろう。
ドン・フィエコのテーブルに、かつての愛人が挨拶に来るだけでもチョットしたスキャンダルだが。今夜の翔之介は、新婚ホヤホヤの新妻を連れているのだ。さぞや噂好きの雀どもには、格好の話題だろう。
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