第一章  翔之介・IN・ハワイ

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 まだ十八歳のユキ。気丈に振る舞っていても、どれほど傷ついたかを想うだけで、心が縮む。  翔之介の腕の中で、震え続けるユキの身体とこぼれ落ちるユキの涙。  後悔で窒息しそうだ。  「許しておくれ、こんな目に合わせる積もりは無かったんだ」、腕の中に抱き寄せると、ユキのベリーショートな髪に頬を寄せた。  ユキが小さく首を横に振る。  せっかくの夜を台無しにしたと、詫びながら、胸にすがり付くと・・とうとう(せき)を切ったように泣き出した。  後部座席をバックミラーで、チラチラと見ながら。「オンナの涙にオロオロする翔之介など、初めて見た」と運転手は思っていた。  以前の翔之介なら、泣き出した愛人など冷たくホテルに送り届け、それですべてが終わりだった。  「フ~ン、旦那様の弱いところをがっちりと掴んでおられるのか」、まだ若いが、大したお方だ。さすがは大奥様が翔之介様の妻とに望まれたお嬢様だけのことはある。 (後で早速、大奥様に今夜の顛末をご報告しなけれならないだろう)  さて、その後部座席では。  翔之介の胸に顔をうめると、「あの女は嫌い」とユキが涙声で訴えていた。  「わかったよ、二度と君の側には近寄らせない」、翔之介が誓う。  ユキが激しく首を横に振った。  「違うの、あの女だけじゃない」  「ユキの翔之介さんには、ユキだけを見ていて欲しいの」、言ってることは支離(しり)滅裂(めつれつ)だが。どうやらこれは、ユキの嫉妬の言葉らしい。  胸が不意に熱くなった。  今夜の企みの、予想外の成果だ。  そっと顔を覗き込むと、ユキの視線を捕えた。顎に手を添えると、仰向かせて濃厚なキッス。嬉しすぎる発見だ!  「僕を愛してるか?」、今さらな問いだろう。三週間もベッドを共にして、好きなだけユキをむさぼった後に言う言葉じゃない。  「ユキの翔之介さん」、恥ずかしそうにささやくと、翔之介の胸に顔を埋めて抱き付いた。  ユキはもっと翔之介の胸に顔を埋めると、もうずっと前から知っていたと言った。一緒に暮らし始めた頃に、翔之介のスキャンダルを特集した雑誌記事を読んだことがあると、告白したのだ。  「恐かった・・」、ユキが震えながら縋り付く。  お子ちゃまのユキに飽きた翔之介が、大人の恋人のもとに戻ってしまうんじゃないかと怯えた日々。小さな声で心細そうに、あの当時をユキの唇が語るのを聞いた。  「あのヒトと・・去年の秋。また関係を持ったの?」、消え入るような声でユキが聞いた。そうだと翔之介が答えたら、心が壊れてしまいそうだ。
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