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心細そうなユキ。
翔之介の心に安堵が広がった。「嫉妬するほど、愛されている」と知った喜びは大きい。
ユキが欲しくて気が狂いそうだったあの頃の翔之介に、ジョジョの誘いに乗る余裕などなかった。躊躇いがちに真実を告白する翔之介だが、そんな言い訳を女にした事がないから言葉がぎこちない。
「疑ったユキがいけなかった・・」
「ごめんなさい」、小さな声で詫びるユキの声が耳をくすぐる。翔之介の唇に人差し指を当てると、そっと唇を重ねる。
ユキを再び、熱く抱き締めると。
「僕もいけなかった、もっと早くユキに愛を打ち明けるべきだったね」、翔之介の甘いささやきがユキを包み込む。
「僕が欲しいのは、ユキだけだ」、もっと強く、骨が砕けるほどの熱い抱擁。
「早く帰ろうね」と、耳の中に誘惑の言葉を流し込むと。ついでに耳たぶを軽く甘噛みする。大人の男の本気を見せて遣ると脅した。
余裕を取り戻した翔之介が楽しんでいる。
ユキが唇を翔之介の首筋に押しつけて、更なる反撃に出た。
運転手は心得たもので、素早く耳にフタをする。
二人だけの甘やかな時の中で、翔之介はユキの心に住んでいる男は自分だけだと納得しかけていた。
他のオトコなどユキには存在しないと、翔之介は自分に言い聞かせる。男のわがままだが、翔之介には必要不可欠な一言だ。
そこでユキが、翔之介恋しさに彼の寝室の前に佇んでいた夜があると、告白の追加を噛ます。まだ十八歳の、恋愛経験のほとんどない妻の懸命な誘惑だ。 翔之介には嬉しすぎる告白がその後も続き、別荘に帰り着いた時にはユキへのパンパンに膨らんだ欲望で、いつ爆発してもおかしくないほどバルーン状態におちいっていた。
車から抱き下ろすと、そのまま主寝室に直行。
二人の熱い夜が始まった。
「ミツコの言う通りだった」
「翔之介さんたら、本当にオセローになっちゃってる」
翔之介の胸に熱く抱かれながら、心の中でミツコに話しかけた。
あの二学年のクラスを乗っ取ってランチタイムを張った午後、それはミツコがこっそりとユキの耳に流し込んだ忠告だった。
忠告の出どころは、祥子の中にいる五十七歳の七重だ。
「あのさぁ、七重は言うにはね」、そんな語り出しだった。
そうなのだ。祥子はオバサンのニックネームを返上、今や美術部では【七重】で通っているのである。
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