第一章  翔之介・IN・ハワイ

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 実は新学期が始まる少し前。  ユキから依頼を受けて、周防(すほう)弁護士が若園祥子の代理人になった。その周防弁護士の仲立ちで、婚約者になったばかりの土方蒼汰と若園祥子の間で、ある取り決めが結ばれたのだ。  それは。(七重が入っている)祥子はまだ十六歳の未成年者で、男女の関係などはもっての外ということで。  同居は無理だと、申し立てたのである。  だが、「はい、そうですか」と引き下がる様な蒼汰ではない。  「それなら平日はこちらが用意したマンションで、ミツコさんと一緒に暮らすと言う事ではどうですか?」、そう提案したらしい。  さすがは【リカオン・ファンド】の調査部だけのことはある、ミツコが家を追い出された事情をすべて把握しているようだ。  ソコを踏まえて、たっぷりとシュガーをまぶした美味しそうな申し出をしたわけだ。  「土曜と日曜、祝日や長期休暇は僕と一緒にココで過ごす。マンションには執事も同居しているから、さして問題はないはずだ」、一気に捻じ込んだ。伊豆家が蒼汰から多額の融資を受けている事情を考察するなら、伊豆明久の娘である祥子の立場は弱い。弁護士もそれ以上の抵抗はできなかったようだ。  そんな訳で、ミツコは若園祥子の同居人として指名されたのである。  ソコはミツコにも好都合だ。  しかし四六時中、一緒に暮らすとなると。「祥子ちゃんと言うのも変だしさぁ、オバサンもねぇ~。仕方なく七重と呼ぶことにしたんだ」、てなことをミツコが言い出した。  「そう言う事なら、オバサンは止めだな」、レンが肯定の意見を吐くと。  「だから、最初から七重って呼べばイイって言ったでしょう」、エイコが居丈高に言い返した。  シュウが面倒くさそうに受け入れて、そういう事に決まった。  まぁ、細かい事情はともかくとして。  七重が言うには。  「三十三歳の差は侮れないわよ。翔之介さんの焦りが、ワタシにはよく解るもの」、と言い出したのだ。  また七重が言うには、それはオセロー症候群というノイローゼだとかで。シェイクスピアの四代悲劇で有名な【オセロー】に因んで七重が勝手に名付けた、精神ストレスの一種らしい。  【オセロー】のストーリーは簡単明快。  ムーア人のオセローは知らぬモノのないヴェニスの有名な猛将だが、まだうら若く美しい娘・デズデモーナを見染めて、妻に迎える(駆け落ちすると言うくだりもあるようだ)  猛将になる迄にはそこそこ時間がかかっただろうから、まだ年若い妻との年齢差は当然あっただろうと七重は言うのだが、そこのところは眉唾物。(どうなのだろうか?)
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