第一章  翔之介・IN・ハワイ

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 オセローという男はムーア人だ。肌の色にハンディキャップがあるから、きっと常日頃からストレスを抱えていたに違いないと七重は主張する。  物語的には。ムーア人でありながらヴェニスの猛将として勇名をはせるオセローに嫉妬した部下のイアーゴに、「デズデモーナが浮気をしている」と見事に騙され、妻と副将との不貞を信じ込んだオセローが、ついに愛するデズデモーナを絞殺してしまう。 (結局は真実を知ってショックを受けたオセローが、妻への贖罪から自殺するのだが。そのくだりは、七重のいうオセロー症候群にはあまり重要ではないらしい)  「オセローはね、デズデモーナが自分に寄せる愛に自信がないのよ」  「もっと若いイケメン男が現れて、いつか自分から妻が離れていくんじゃないかって。いつも不安で一杯なんだなぁ」、七重には身に覚えのある焦りらしい。  たぶん翔之介も、三十三歳の齢の差に怯えを感じているはずだと、七重は言うのだ。  「ウ~ン」、とミツコが唸った。  「そこは解ったからさぁ、ユキは如何したらいいのよ」、ミツコが対応策はないのかと突っ込んだ。  ミツコにはまだ経験のない分野だ。  「そうね、相手よりも激しい嫉妬を見せつけるってのはどう?」、翔之介よりも先に、嫉妬を見せつけるのも一つの手だと七重が薦めた。  「嫉妬を、嫉妬で封じるのか」、ミツコが考え込んだ。やり方が思いつかないらしい。  そこで。横でサンドイッチを無心にパクついていたエイコが、いきなり参戦した。  「ユキと翔之介さんの星に、歓迎されざる星が近づいてる。昨夜、星を観察していて見つけたんだ」、陰陽師は昔から天体観察が仕事だ。エイコも毎晩、星を眺めて長い時間を過ごしているらしい。  「それに陰陽道の八卦(はっけ)に、翔之介さんに女難の相も出てる」、相変わらず唐突な物言いだが。「当たるも八卦、当たらぬも八卦」と言うが、エイコの八卦は必ず当たるから恐ろしい。  ソコでミツコが。  「よっしゃー、ソレで行こう」と、ポンと膝を打って叫んだ。エイコがきょとんした顔で、「どういくのよ?」と首を傾げている。  「つまりさぁ、ハワイで翔之介さんは女難にあうんだよね」、言い換えれば、翔之介もたいして逢いたいと思っていない女が、ユキと翔之介に接触して来ると言う事だ。  そこまで聞いても、エイコは全然ピンとこないらしい。焦れたミツコが、噛んで含めるように説明を挿入。  「新婚の男が会いたくない女と言ったらさぁ、過去に関係を持ったオンナに決まってるじゃん」、エイコがフ~ンと、あいまいな相槌を打つ。
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