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熟睡はしていないが、心地よい微睡みの中に沈む翔之介を確認すると。レストランに出発する前に枕の下に隠しておいたスマホを、そっと取り出した。
スマホを手にしたまま、翔之介の腕の中から滑り出る。
裸のままバスルームに足音を忍ばせて入ると、シャワーの栓を捻った。バスルームからシャワーの音が流れ出て、翔之介の耳に聞こえるのがミソだ。
水音に紛れて、ミツコとメールを素早く交換。やり取りの内容も、シッカリと打ち合わせ済みだ。
もしも翔之介がベッドから出て、バスルームまで来たら、その時は一緒にシャワーを浴びるまでだとミツコは言ったのだが。(でも翔之介は、運よくメールの交換が終わるまで、起きてこなかった)
その後でシャワーの中に入ると、急いで身体を洗った。ココもミツコの指示通りの行動だ。
「髪が濡れてなきゃ、翔之介さんの不審がその場で確定しちゃうでしょう」、意味不明な説明だが、ここはやるっキャない!
そっとベッドに戻ると、バスローブを脱いで翔之介の腕の中にまた潜り込んだ。胸に甘えて眠る演技をするためだ。
ここが策謀の一番の目玉。こっそりとスマホを枕の下に戻す動作を、それと無く翔之介に感知させることが重要だ。
その翔之介はと言えば。ユキが腕の中から滑り出た瞬間に、目を覚ましていた。ユキが消えたバスルームから水の音が聞えるから、シャワーを浴びていると解る。
ユキはまだ愛の経験が浅いから、一緒にシャワーを浴びようと翔之介を誘ったことがない。
愛の後のシャワーを一人で使う。
「恋人は一緒にシャワーを浴びるモノだ」と、ユキに教えて遣らねばならないと、この三週間ずっと思っていたのだ。(勿論そこも、ミツコが指示した策謀の一環だったのだが)
ユキが戻ってくるとバスローブを脱ぎ捨てるから、彼の男がまた疼きだす。美しい裸身だ。
戻ってきたユキの身体を抱き寄せると、手を這わせてぬくもりを調べた。思ったよりも冷たい身体に、心がヒリッとする。
翔之介はユキの美術部の仲間にも、まるで気を許してはいない。レンとシュウ、あのイケメンの若僧たちが、ユキと交友が深いことが気に入らないのだ。
「もしかしたら」、心の中のオセロー症候群がざわつく。不貞の二文字が、まるで緋文字のように胸に縫い取られた糸を通して焼き付いた。
「ユキはバスルームで、いったい何をしていたんだ?」、嫉妬の混じった疑惑が胸を咬む。
「スマホを持っていたな」、チロチロと蛇の赤い舌が心になめて、疑惑を流し込む。
確かめねばならないと、強く思った。
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