第二章  宇宙にひろがる☆絶対零度

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 第二章  宇宙にひろがる☆絶対零度

 1・天空の大脱走  翔之介がユキを独占して、愛の至福に浸っているちょうどその頃。  天空の楽園にある神様の領域でも、死神が管理する検非違使の祐親を閉じ込めて置いた養生カプセルが破られると言う、天界始まって以来の大事件が勃発していた。  まさかの大脱走である。  そのマサカを起こしたのは、美登里奥様に十億円で雇われたプロの呪術師集団だった。彼等は国籍も様々なら、肌の色も白・黒・黄色とバラエティーに富んでいる。営利目的の呪術者のスペシャリスト集団といった所だろうか。  彼らは呪詛と名のつくものなら、殆ど世界中の呪術を網羅している。黒魔術から密教の奥義、道教や古代インドのバラモン教、南米のブゥドー教や古代エジプトのファラオの呪いまで、多種多様な呪術を駆使して呪詛と言う契約を遂行するのだ。  しかも多額の金さへ積めば、誰を呪い殺すことも厭わないと言うから。その節操のなさは見上げたものである。  事の起こりは四月の初め。  どういう理由でそうなったかは、解らないが。美登里奥様の実家の金庫番を務める番頭が、意識不明の重体に陥った。以来、五月に入るまでの一カ月間。まるで回復の見込みのない植物人間のまま、病院のベッドの上で眠っている。  当然だが美登里奥様の実家は、裏の金融業に行き詰っていた。全てを番頭任せで過ごしてきたために、金の動きがまるで解らないのだ。  このままでは貸倒損失は計り知れない。  その実家の衰退に付け込んで、図に乗った夫の明久が堂々とのさばっている。しかも娘の縁談相手にと目星を付けておいた土方蒼汰にまで、まんまと逃げられる始末に、歯嚙みするほどの怒りを覚えているが。  番頭がいなければ、打つ手がない。  しかも土方蒼汰は伊豆明久に多額の融資を申し出ると、見返りに若園祥子との婚約を申し入れたのである。イライラと爪を咬み過ぎた所為で、自慢のネイルがボロボロ。  腹立たしいたら無い!  そんな四月も半ばを過ぎた頃からだろうか。夜な夜な、昏睡状態に陥っている番頭の生霊に苦しめられるようになった。  不眠に陥った美登里奥様は、ついに神仏に縋り付く事にしたのである。多額のお布施を包むと、生霊退散の呪法を本山に懇願した。護摩を焚き、御仏の加護を願ったのである。  護摩壇を組むと、天狐・妖狐の護符を供物として、燃え盛る護摩の中に放り込む。その時に生霊祓いを担当した坊主が、生霊と化した番頭の訴えが聞えたと言いだしたのだ。  坊主が言うには。  天界の養生カプセルとか言う謎な場所に、番頭の魂が軟禁されているのだとかで。  「美登里奥様のもとに帰りたいから、助け出して欲しい」と、その魂が切々と訴えているのが聞えたと言うのだ。
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