第二章  宇宙にひろがる☆絶対零度

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 「この生霊は、奥様に(たた)って(わざわい)をなしているのでない」と、太鼓判を押した。生霊を(なだ)めるには、その養生カプセルから出してやれば問題は解決すると、鼻高々で美登里奥様に告げたのである。  それは美登里奥様には朗報。天界の下っぱ役人である死神くんには、えらい迷惑。余計なお世話だった。  そこで美登里奥様は番頭が健在な頃。  度々、政財界の目障りな奴を消すために使った事のある、裏社会に生きるある呪術師集団を思い出したのである。それは多額の金を積めば何でもやる、頼もしい奴らだった。  早速、手付け金を一億円ほど用意して繋ぎを取った。  その集団のマネージャーを名乗る女が現れたのは、ソレから三日ほどしての事だった。  女は、成功報酬を求めた。  「番頭の意識が戻ったら、十億円を支払うわ」、美登里奥様は即答した。  番頭が居なくなって窮地に陥っている実家を救う為なら、十億円など安いものだ。それに番頭が元の状態に戻らなければ、忌々しい伊豆明久を(くび)れないではないか!  その女は、美登里奥様の言葉にニコッと笑った。小柄で平凡なオンナだが、まだ若い。もしかしたらコイツはまだ、未成年かも知れないと思った。  嬉しそうに頷くと。  「十億円で、その呪詛を請け負います」、答える声もまだ少女のものだ。  「しくじったら容赦しないわよ」、相手を甘く見た美登里奥様は、何時ものように居丈高に脅してやった。  フグッと、女が嗤う。  一瞬にして、若い女の顔が老人の顔に変わった。ハッと気が付いた時には、老人の手に握られている錫杖が喉元に突き付けられ、金縛りにあっていた。  「御懸念は無用」、領収書変わりだと呟くと。美登里奥様の手のひらに錫杖の先を押しつけ、梅の花形の痣を残して老人は消えた。  その梅の花の痣が契約書替わり、契約は無事に結ばれたのである。  呪術師集団のボスは年齢不詳、性別不詳。正体不明のアメーバーだと言われている。老人の姿も、仮の姿に過ぎない。  そのボスが決めたことだ。  今回の呪詛には、黒魔術を応用した呪術を使う。理由は簡単。準備に金が掛からず、しかも短時間で結果を得られるからだ。  「十億円のはした金では、この程度がせいぜいよ。ケチな女だのぉ」、横に立つ女に話しかけると、女は妖艶な笑みを浮かべた。  女は見事なプロポーションを誇るビーナスタイプ。艶やかな肌が真珠色の輝きを放つ、魅力的な魔女である。魔界の住人と交信できる特殊能力を持って生まれてきた異能者だと人は言う。  今回の呪詛を担当するのは、この魔女だ。
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