第二章  宇宙にひろがる☆絶対零度

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 呪詛の場所としては、滅多に人が来ない様な山奥が望ましい。地底に深く降りる洞窟を選び出し、天井から一条の光が射す場所を探り当てる事から始まった。  その場所に六芒星の魔法陣を描き、魔界と繋がる結界を創り出すのだ。中央にドリルで掘削して、小さいが深い穴をつくると。その穴の中に炎をあげるまで、容赦なく薪と墨をほかり込んだ。  チョットしたキャンプファイヤーだ。  天井の穴から光が差し込む時間を見計らって、穴の中に大量の乳香を投入。燻された乳香から、良い香りのする白い煙が立ち上って、天井の穴から差し込む輝に導かれて空高く昇っていく。  邪悪なものを払う煙だと、キリスト教でもイスラム教でも崇められている乳香だが、実は魔界の住人にも人気が高い。  最近の夢路で、魔界の住人に接触した時に聞き込んだ話では。  「その番頭なる男の魂。天界に魂を運ぶ役目の死神から、検非違使の祐親と呼ばれて居ったそうな」  「どうも、七尾の妖狐が絡んで居るようだぞ」、そう言ったのだ。  妖狐というのは、本来は神代の生き物で。死神如き下層階級の神の管理からは、大幅に外れた存在だ。  その妖狐が目の敵にしている魂と、救い出すと約束した番頭の魂が同一となれば、この脱出劇に拘るのは十億円ぐらいじゃ安かろうと、ボスが判断したのは当然の成り行きだった。  「ケチな仕事だ」  「早々に切り上げるぞ」、すでにボスから部下の呪術師どもに、キビシイお達しが下っている。  今日はこの乳香の煙に魔界の住人の力を借りて魔女の魂を乗せ、雲の上にある天界の門をチョットだけこじ開けるのだ。  その穴から己の意識を触手として伸ばし、養生カプセルの表面に粘着質の思念型小型爆弾を貼り付ける。  「大した威力は無いが、卵型の養生カプセルにヒビを入れるくらいは出来るぜ」、思念型小型爆弾を貸してくれた魔界のテロリストがそう言っていた。  魔界の住人とテロリストには、御礼代わりに乳香をたんまりと渡しておいた。(ヤツ等の大好物なのだそうで・・どうもカノジョと一緒に喰らう気らしい)  「丈夫な胃袋だな」、苦笑が漏れる。  ソンナ呪詛の儀式のお陰か、死神が検非違使の祐親を閉じ込めて置いた養生カプセルの殻にヒビが入った。卵の白身のような養生液が流れ出ると、雲の隙間から下界に滴り落ちて行く。  これが下界に近ずくと、線状降水帯を創り出して洪水の被害をもたらすのだそうで。天界は大掃除の為に、天使から下っ端の神様までが総出の、てんやわんやの大騒ぎになった。
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