第二章  宇宙にひろがる☆絶対零度

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 2・ザボン君、現る!  翔之介の牽制が裏目に出た。ザボン君の闘争心に火が付いたのだ。  調査を命令して三日目。  ザボングループが誇る調査部が、翔之介・アベル・ドン・フィエコの結婚を詳細な点まで調べ上げた。  お気に入りのカクテル・モスコーミュールを片手に、ワイキキビーチを見下ろすテラスに出ると、心地よい風が彼の頬を撫でる。  頭の中に、パソコンで確認した翔之介の調査結果が踊った。ウォッカとライムの香りを楽しみながら、口元に策謀の笑みが浮かぶ。  今日の彼は、珍しく興奮している。  三日前までの彼は、人生に飽きていた。情事にも前ほど燃えない、仕事も順調すぎて興奮しない。たまに顔を合わせれば、文句しか言わない妻。(このままでは四回目の離婚も間もなくだろう)  四回も結婚したのに、子供には恵まれなかった。残ったのは、多額の慰謝料をせしめてほくそ笑む元妻たちとの、不毛な思い出だけ。  ザボン帝国をたくす後継者がいない。  自由と言えば、自由だが。  どこか虚しい・・そう思っていた。  そんな彼の目の前に、同類だと思っていた翔之介が。驚くほど若い新妻を連れて現れたのだ。  「十八歳の新妻かぁ」、正直なところ戸惑った。日本的には高校生、フランス風にはリセエンヌだ。  「幼い女が趣味か?」、遊びすぎるとそうなるとは聞いていたが、今までの彼ならそんな世迷いごとは信じなかった。  だが目の前で実物を見た今は感想が違う。それはそれで羨ましい。  ドン・フィエコの婚約は四年前に遡るというから、婚約した時の娘は十四歳だ。手付かずの、正真正銘の処女地である。  婚約は両親の勧めによるもので、翔之介の放蕩に頭を痛めていた母親が画策らしい。  「あの翔之介が、よく大人しく受け入れたものだな」、素直な感想だった。  だが婚約当時の翔之介には、香港に愛人がいたようだ。フレデリックもよく知っている香港の国際的な映画スターだ。  「あの女を囲っていたのか」、クスッと笑みが漏れる。  (なかなか良い趣味だ!)  完璧なプロポーションと妖艶な笑みで、世界中の男性から熱い支持と評価を得ている女優だが。身体も一級品なら、囲うのに使う金もハンパじゃすまないオンナだ。  しかも翔之介がその女優と関係を絶ったのは、婚約から半年以上も過ぎた頃だと言うから。如何にも翔之介らしい抵抗の痕跡がうかがえる話だ。  あの日本娘との婚約も、順調な滑り出しとは言い難かったと言う事か。  「そう言う事なら、横取りもアリだな」、グフッと悪戯ごころが躍る。
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