第二章  宇宙にひろがる☆絶対零度

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 翔之介の新妻は、美しい娘だった。  ジョジョが、「日本にはね、男装の麗人が売り物の有名な歌劇団があるのよ。そこの女優みたいな娘だわ」などと称していたが。翔之介が連れていた背の高い娘の、気品あふれる姿が彼の心に焼き付いた。  男装の麗人とは、まさに言い得て妙!  「奪い取ってやる」、五回目の結婚も辞さない覚悟が出来た。フレデリック・ザボンは早速、行動を開始した。  先ずは、一人になる必要がある。  そこでお邪魔虫のジョジョを、一足先にパリに返すことにした。やり方は心得ている。ジョジョの鼻先に、彼女が欲しがっているモノをぶら下げるのだ。  「社交シーズンのドレスを、今年は早めに注文したらどうかな?」、この一言で。今年の社交シーズンの費用は全部、フレデリックが支払うと約束したも同然だ。  ジョジョの顔が喜びで輝く。  「でも・・アナタを一人残して。私だけパリに帰るのは気が引けるわ」  言うだろうと思った言葉を、そのまま口にするジョジョが可愛くもある。  「今年のバルは、いつもよりも賑やかなようだよ」、ジョジョの関心を煽る情報を、幾つか仕入れてある。  オテル・ドゥ・クリヨンで開かれる『ル・バル・デ・デビュタント』は、パリ社交界の一大行事。社交界名簿に名を連ねる御婦人方にとっては、色々と気が抜けない正念場だ。  その完全招待制の舞踏会は、ドレスや身に着ける宝飾品、バックや靴などの小物類にいたるまで。多くのファッション誌が注目する大イベントなのである。  御婦人方の力も入ろうと言うモノだ。  ジョジョも例外ではない。  しかも毎年、デビューを飾る令嬢たちには世界中の関心が集まる。何処かのプリンセスもいれば、大富豪の令嬢やハリウッドの大スターの娘もいる。  「今年はね。ブルボン家の血を引くプリンセスや、ハリウッドの大スターの娘もいるらしいよ」、小出しに興味を煽る作戦に出た。  「あぁ、そうだった」、思い付いたように情報を追加する。(釣り餌をジョジョの鼻先に垂らしてやるのだ)  「君とスイスの学校で一緒だった、イタリア貴族の奥さんがいただろう。彼女の娘さんもデビューするようだよ」  ジョジョの眉がピキッと跳ね上がった。そのイタリア貴族の奥方とジョジョは、同じスイスの寄宿学校の出身だ。奥方はジョジョよりも十歳ほど年上だが、何かと比べられることが多い関係らしい。  去年のモナコグランプリにジョジョを誘った時、たまたま友人のパーティーで出くわしたのが、そのイタリアの伯爵夫人だった。  顔を合わせた瞬間に、お互いに険悪な空気を身に纏うと。辛辣な舌戦を繰り広げたのには驚いた。
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