15人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
白く輝くパウダーサンドも、エメラルドの海も十五歳の夏と変わらない。そんな日々のなか、心地良い貿易風に髪をなびかせるユキの美しい事と言ったら。翔之介はユキにのめり込んだ。
二人はウィンドサーフィンを楽しみ、翔之介が巧みに操るヨットに乗り込んで海の上を風任せに走ったりもする。
その度に躍動する背の高い細身のユキの身体が眩しい。胸も腰もまだまだ少女のものだが、それでもシッカリと鍛えられた強い身体だ。
それが翔之介を喜ばせる。
「こんな女は初めてだ」、驚きの発見だ。
またある時は、サンドレスを風になびかせて砂浜を走るユキを、逞しい大人のオオカミ男が追っていく。勿論、砂浜でユキを捕まえて情熱のままに貪るためだ。
木陰のランチは、そんな戯れのずっと後になる。二人はエデンの園に住む、アダムとイブだ。
そんな三週間の果て。ユキは翔之介が初めて心の揺り籠に住むことを許した、大事な彼だけのオンナになった。
ユキが側にいないと、不安で眠れない。抱き寄せてその身体のぬくもりを腕に感じないと、心が休まらないのだ。
夢中だった。
「ユキは如何なのだろう?」、疑いが蛇のように心に忍び寄るのはそんな時だ。
ユキの美術部の仲間に男がいる事を知ったのは、結婚式の時だった。レンとシュウ、ユキはそう呼んでいた。
どっちもイケメンで、しかも若い!
ヘビが言葉巧みに、翔之介の心に茨イチゴの実を忍び込ませる。熟れたイチジクまでが、その甘くてねばつく濁った汁を胸にたらし込む。
蛇に心を咬まれた翔之介は、ユキの恋心を試さずには居られなくなった。
三週間が過ぎたある日。
ついに我慢できなくなった翔之介は、下らない企みを実行に移した。超高級ホテルの一階にある、有名なレストランにユキを連れ出したのだ。
ロールスロイスにユキを乗せた瞬間に、翔之介はもう後悔していた。ユキを疑ったことにではない。そのホテルに泊まっている若い男達の眼にユキの姿をさらすことが、ひどく不安になったのだ。
五月と言えばハワイの観光シーズンの幕開けだ。アメリカ本土はもちろん、ヨーロッパ中から富豪の息子たちが集まってくる。
しかも奴らにはイケメンが多い。
そればかりか三十代の青年実業家や、四十代の遣りてのビジネス鮫もウヨウヨと泳いでいるだろう。
彼のユキの今夜の美しい事と言ったら、言葉に尽くせないほどだ。彼女のために仕立させた華麗なソワレに身を包み、翔之介が贈ったダイアモンドのネックレスがユキの細い首に煌めく。
最初のコメントを投稿しよう!