第一章  翔之介・IN・ハワイ

4/21
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
 翔之介が心を込めて愛し抜いたこの三週間の日々が、お子ちゃまだったユキを、眩しく脱皮させていた。  少女の殻をまだ背中にくっ付けているか細い雰囲気が、どれほど男心をくすぐるかは翔之介自身で実証済みだ。  予約しておいたオーシャンフロントのダイニングでは、海に沈む夕陽を背景に熱く燃える松明の中で。ハワイアンミュージックをバックに、フラダンスのライブショーが始まっていた。  「素敵だわ」、目を輝かせるユキの手を握りながら。翔之介はサッサとレストランからユキを連れ出したい衝動と闘っていた。  席を占める富裕層の人々の騒めきのなか、見知った顔を幾つか確認した。若い男どもが美しいユキに興味を持っているのが、手に取るようにわかる。  自分とユキの年齢差を考えれば、ユキを彼の姪か、友人から預かっている娘だと思っているのだろう。  きっと、挨拶にやってくる。ユキに紹介してもらうために、図々しくも優し気な笑みを顔に貼り付けた、まだ若くて未熟な狼が遣ってくるだろう。  だが。翔之介が危険を承知でユキを連れて来たのは、そんな若造に会わせるためではない。  今も遠巻きにユキを観察している、ビジネス鮫どもにユキがどういう反応を見せるかを確かめる為だけに、わざわざここに連れて来たのだ。  奴らは危険だ。  金も力も、翔之介と張り合えるほど持っているばかりか。ユキに出逢うまでの翔之介がそうであったように、気に入った女は食欲をそそるデザートだと思っているのだ。  気の向くままにつまんで見るが、飽きれば捨てる。涎が出るほど美しいユキは、鮫がうようよ泳ぐ海に投げ込まれた美味しそうな餌だ。  必ず喰い付いてくると知っている翔之介の心に、昏い海が広がる。だがユキは翔之介の疑心暗鬼になど、欠片も気づいてはいなかった。  美しいフラダンスを見ている内に、新作の構想が浮かんだのだ。出来るなら、こんなショーでは無く。神にささげられる本物のフラが見たいと、激しく心がざわめく。  「翔之介さんに抱かれて女になったこの島で、神にささげるフラの神秘をステンドグラスに刻みたい」、心に熱く湧きあがる想いに捕らわれていた。  どうやって翔之介に、その湧きあがる思いを伝えようかと必死だ。  一組の男女が少し離れた席に現れたのは、そんな時だった。  夕日が沈み切ったオーシャンフロントのダイニングに、煌びやかな社交界の華をエスコートして、成功者の匂いをプンプンと漂わせたタキシード姿の男達が入ってくる。そういう時間だ!
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!