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翔之介がそうであるように、タキシードが当たり前に似合っている人種。
手を取られている女達も、一目でクチュールとわかる(自動車がゆうに一台は買えるほど値の張った)ドレスに身を包み。その半分裸のような身体を護る鎧のように、これでもかというほど宝石を身につけている。
その中の一組が、拙い事に翔之介に気が付いた。
その女とは、十年来の腐れ縁だ。
翔之介が放蕩生活に明け暮れていた頃。関係した愛人と愛人が入れ替わる手持無沙汰の合間に、幾度か摘み食いした事のあるオンナだ。
フランス貴族の末裔を名乗るオンナは、パリ社交界をねぐらにして居る。十年の間に何度も翔之介の気を引いて妻の座に収まろうとしたが、残念ながらいつも不発だった。
女の名前はジョルジュ。社交界ではジョジョの愛称で通っているオンナだ。あのショパンの恋人だった女流詩人のジョルジュ・サンドと同じ名前だと、オンナはいつも自慢そうにベッドの中で言っていた。
抱き心地は、まぁいい方だろうか。
詰まらぬことを思い出して、眉間のジワが深くなった。一緒にいる男はフレデリック・ザボン。少し前の翔之介と同類だ。
ジョルジュがフレデリックの耳元でささやく。
「アベルがいるわ。また新しいオンナを連れてるみたいよ」、手に持った扇子を開くと口許を隠した。オンナは翔之介を、セカンドネームでアベルと呼ぶ。自分は特別なのだと印象付ける為だ。
「やけに若いな」、フレデリックがからかうような笑みを口許に浮かべた。アレは、どう見ても二十歳か?・・もしかしたら、十代かもしれない。
「前にもね」
「アベルはハリウッドの若い女優に手を出したこともあるのよ。たしか娘はあの時、二十歳だったかしらね」、ささやくジョルジュに、男が面白そうな顔を向けた。
「でもねえ~。その娘があんまりにもお子ちゃまだから、アベルは三月ほどで飽きたみたいなのよ」
「映画の主役を餌に、厄介払いしたようだわ」、フレデリックの耳元で、金髪に青い目の有名女優の名前を囁いた。
「ほぉ~。あの娘がね~」、フレデリックが相槌を打つ。
「さすがはドン・フィエコだ。見る目がある」、フレデリックの言葉が気に障った。
「どうせあの娘のことも、その手の遊びでしょうけどね」、口許に酷薄な笑みが浮かぶ。フレデリックが翔之介が連れている娘に気があることを、素早く見抜いたのだ。
ココはちょっとばかり、煽って見るのも面白いかも知れない。あんなションベン臭い小娘を相手に、負けを認める様なジョルジュ様ではない。
「確か日本には、男装の麗人を売り物にして居る歌劇団があったはずだわ。しかも男装の麗人を育てる、付属の養成学校まであるそうよ」
扇子の陰でささやく。
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