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そういう訳で、姫に会いに来たヨー公子は王子とお茶をすることになった。姫が寝ているこの部屋で。公子の親兄弟が知ったら「何と無礼な」と大騒ぎになるだろう。
脚の細いミニテーブルに、ハーブティーと焼き菓子が置かれた。公子は遠慮がちにカップに手を伸ばす。
「公子は、狩りはお好きなんですか?」
「はい、唯一の趣味と言ってもいいですね。この地方はいい鹿がいるのでときどき来ます」
「なるほど。それで血の臭いがするのですね」
まだ少年っぽさの残る声で言われて、公子の顔が強張った。
「臭いますか?」
「失礼、そういう意味ではないのです。雰囲気と言いますか……池ばかり見ている私は、きっと水の臭いがすると思います」
「池」
「池を描くのが好きなんです。姉は私を『池の王』と。この話は長くなるので、またの機会にしましょう」
王子はハーブティーを飲んだ。唇が湿るとその赤さが際立つようだった。
「せっかくですから、姫のことで何か知りたいことなどありましたら、お答えしますよ」
「いやしかし、本人の前でそんな……」
「大丈夫です、よく眠っていますから。それに、姉が誰を選ぶにせよ、私達は近い将来兄弟になる訳です」
王子はつかみどころのない笑みを浮かべた。
ヨー公子の父親は、伝統ある家柄ではなかったが、ここの城主よりも広い領地を治める有力貴族だ。両家が親戚となればお互いにとってプラスになるので、お互いに姫と公子の結婚を望んでいる。ただし、未婚の公子はヨー公子の他にもう1人いた。
兄弟の内のどちらが姫の相手になるか――今日こっそり城を訪れたのは、姫と交流を深めつつ、彼女の気持ちを確かめようと思ったからだ。
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