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「お待ちください、姫」
王子に向かって突進しかけた姫を、ヨー公子は後ろ手にしてつかんだ。寝起きのせいか「止めないでください」という声は少し低かった。
「落ち着いて。何をするつもりですか?」
「顔をつねるくらいさせてください。黙って聞いていればキスだなんて……」
いつから起きていたのだろう。公子の頬がポッと熱くなった。そこへ、王子がのんびりとした足取りでやって来た。
「おはようございます、姉上」
「離してください。お遊びは終わりですよ、姉上」
聞き違いだろうか。
「だいたい何ですか? いくら私でも人様に対して『血の臭いがする』なんて言いません」
「そうですか? それはそうと、やっぱりお似合いですよ、姉上」
「ちなみに、口紅がついたままですよ。あ、ね、う、え」
「あ」
王子の服を着た「姉上」が指で自分の赤い唇に触れた。公子は呆然と2人を見比べる。
「もうお分かりですよね。先ほどまで公子と話していたのが姫です。姉はあなたを驚かせたかったようですが……ご無礼の数々、お許しください」
「では、あなたが本当の王子?」
「あまり見ないでください。私は姉に頼まれただけなのです」
姫の姿で恥じらう王子は、男だと分かっても愛らしく、そして「水の臭い」がする気がした。一方、本物の姫は軽く咳払いをすると「ごめんなさい」と歌うように言った。
「ご家族にはどうか内緒にしてくださいね。改めまして、今後ともよろしくお願いします、ユー様」
姫の優しく美しい本来の声に、公子は苦笑するしかなかった。
「……よく間違えられますが、私は次男のヨーで、ユーは弟です」
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