八月の妹

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八月の暑い昼下がり。 仕事で遠出した帰り。 私にとって大一番のつもりのプレゼンは、どうやら失敗に終わったらしい。 コンペだなんて聞かされてなかったのに、私のプレゼンが終わったと思ったらすぐに、沢山の資料を抱えた、ライバル企業の若い女の子がその会議室に入ってきた。 私はその後すぐに部屋を追い出されたので、ライバル社のプレゼン資料を見た訳じゃないし、内容を聞いてもいない。 でもこんな時は、プレゼン先の企業の担当者の私への態度でなんとなく察してしまうもの。 “ああ、私、負けたんだ”って。 (朝、テレビで見た星座占いは1位で、“いいご縁がある”って言われたのにな) なんだかこのまま会社に帰るのも気が重い。 どういう風に課長に報告すればいいのか、少し頭を冷やして整理したい。 そう思った私は、帰社の前に電車を途中下車して昼食を取ることにした。 普段使うことのない私鉄、且つ初めて降りる駅。 悪い流れを変えるためにも、たまには思い切って違うことをしてみるのもいいだろう。 幸い今日の外回りは私一人だ。 多少を長めにとっても、咎める人もいない。 初めて降りた駅のコンコースを抜け、予め電車の中でスマホで検索して目星をつけていたカフェに向かって歩く。 もうランチには遅い時間。 日傘を差していても容赦なく照りつける真夏の日差しが、ただでさえ仕事でイライラしている私を、さらにイラつかせる。 ブラウスの下を汗が流れ落ち、肌に張り付く。 早くエアコンの効いたカフェに入りたい。 カフェへの道順を確かめるためにスマホに目を落としていた私。 前を見ていなかったせいで、少し周りの人との距離感を測り損ねてしまっていたらしい。
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