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タクマが私のことを、「お姉ちゃま」と呼んでいたのは、小学校に入るまでの短い期間だった。私が中学に入るちょっと前に、「きょうだいは対等の立場だから、姉のことは『姉』と呼ぶ」などと宣言して、世間ではあまり使われないだろう「姉」で、ずっと通してきた弟だ。今さら姉に頼み事をしようなんて、映画にでもなりそうなテンプレ展開を望むはずがなかった。
「それでも何かして欲しいのかなと思ったけど、開けないんじゃ何も分からないよ」
私のひとり言に、SIGは反応しなかった。
「これはいよいよ、あの人が不用品を手放しただけか」
それにしても、よく母はタクマのものを私へ贈る気になったものだ。
「理由があるなら、知りたいわ」
スマフォから、「ピ」という電子音が上がり、SIGの声が不思議を語った。
「コチラ ノ、TODOリスト ヲ フォロー シテイマス」
画面に文字列が表示された。いちばん上の列に、「姉の手が触れるまで、電源が入らない」とあった。次の行に目を移すと、「母親、スマートフォンを姉の家に送る」と書かれていた。三行目は空白だった。
「いったい、誰が……。SIG、説明して」
「スミマセン。ヨク ワカリマセン」
「誰かが予定を立てて、リストを作ったのでしょう。それは、誰」
「スミマセン。ヨク ワカリマセン」
「『弟』の、タクマだよね。だってほかの誰にも出来ないもの」
現実を考えれば、亡くなった者には何も出来ない、それくらいは分かっていた。
「スミマセン。ヨク ワカリマセン」
「じゃあ、何でここに来たの? 何のためにリストがあるの」
「スミマセン。ヨク ワカリマセン」
SIGはまるで、私の苛立ちをあおっているようだった。
「じゃあ分かっていることを教えてよ。SIG、何をしに来たの」
電子音が響いた。画面の中央で、音声に合わせて色を変えるだけだった光点が広がり、ドーナツ状の輪になった。
「オトウト サン カラ ノ デンゴン ガ アリマス」
SIGは、こころなし厳かに声を響かせた。
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