少女の告白

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 印籠のごとくスマホを突きつける菜子に、瑞実は顔をこわばらせて首を左右に振る。いつの間にか瑞実と菜子の立場が逆転したようだ。  菜子は不機嫌さを隠さずに言葉を続ける。 「麻木くんもいつまでもぐだぐだしてるから。これからもぐだぐだ言い続けて、長いこと独り身でいるタイプだよね。多少頭とルックスがよくても、あんなぐだぐだした男のどこがいいのか私にはわかんないけど」  理解できないというように菜子が肩をすくめる。  司のゴロゴロした姿はかろうじて知っているが、ぐだぐだした姿を翔子は知らないが結構な言われようだ。 「ぐだぐだが発酵するのか、年貢の納め時だと思うのかリタイアするころになって、ようやく重い腰上げるんだよね。普通に付き合ってたら長すぎる春だよ」  司に対する文句を一通り言い終えたのか、菜子は一度目を閉じる。司本人にぶつけたい怒りを抑えるように深呼吸すると、目を開いて瑞実を見る。その目にもはや怒りはない。 「その頃、瑞実ちゃんがもし一人でいたら麻木くんと一緒に生活することも考えてあげて」 「ぐだぐだしている奴でよかったら、だけどね」  翔子が口添えして苦笑すると、瑞実は目を赤くしてぎこちなく頷く。  待っていた西園たちに連行されていく瑞実を玄関まで見送ってリビングに戻ってくると、窓の外には雲一つない空がどこまでも広がっている。  タワマンは空が近いかと思えばそんなことはなく、空はいつもどんなに手を伸ばしても届かないところにある。  少女たちはちょっと手を伸ばして届く幸せではなく、どんなに手を伸ばしても届かない理想の幸せに手を伸ばしていたのかもしれない。  その日の夜、山内瑞実は遺体遺棄容疑等で警視庁に逮捕された。
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