少女の告白

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 あの日、五十嵐はサマーニットの下に密かに耐刃ベストを着用していた。だが刺される役は西園にとって代わられ、役に立つことはなかった。それが明らかになったのは瑞実が連行された後、神原家のリビングで五十嵐がサマーニットを脱ぎだしたからだ。菜子はお手洗いで席を外しており、翔子と五十嵐の二人しかいなかった。 「ちょっ……、何脱いでんのよ!」 「え?」  サマーニットの下から現れたのは翔子もよく目にする、宮城県警と入った耐刃ベストだった。 「なんで、そんなの着こんでるのよ?」 「しょうがないじゃないですか。菜子ちゃんに怪我させるわけにはいきませんし。いざってときに体張るの、僕ですよね」 「私、生身なんだけど!」 「拝島さん、寝坊して署に寄る時間ありませんでしたよね」  そんな会話を、瑞実の身柄をほかの捜査員に任せて戻って来た西園と菜子に聞かれていたのは記憶に新しい。翔子にとっては消したい記憶の一つだ。 「今度、あっちのお母さんと会うんでしょ」  木原が口を挟む。  ――なんだそれ、聞いてない。  五十嵐が翔子にプライベートの報告をする義務はないが、なんとなく面白くなくて五十嵐に再度目を向ける。 「お母さん、亡くなったお父さんの内縁の奥さんですよ。血のつながりはありませんけど、今となっては菜子ちゃんが本当に頼れる唯一の人ですから」 「……そうね」
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