少女の告白

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「それにあの情報収集能力? うちの木原もネット界隈には強いけど、それに匹敵するでしょ。執念深さはシゲさんの方が上だけど、さっぱりとしたシゲさんと違って、何気に根に持ちそうだし。拝島みたいに夜中に飲んで寝落ちして、肝心な仕事の時に寝坊することもないだろうし」 「申し訳ございませんでした」  ――これはしばらく言われ続けるパターンだ。  翔子が一人、頭を抱えていると田村は息を吐く。 「家の中のことなんて、家族以外わからないのよ。家族の誰かが告白しても他の家族が否定すれば、よほど疑わしくない限り、それで終わりになってしまう。事件が起きてから動いたら、もう遅いの。今回は少なくとも一人の命は救えた」  菜子のことだ。今回は未然に防げたが、事件が起きて――瑞実が菜子を刺して――からではその命がなかったかもしれない。 「だから優秀な人材が欲しいの。拝島、密命。あんたの甥っ子、県警に入れな」  男口調になった田村が翔子を顎でしゃくる。 「入れなって……。本人の希望が」 「イケメン先輩、拝島と今度食事でもって言ってたわよ」 「……マジですか」  恋の予感か。 「マジ。甥っ子、入れてくれるなら休みの都合つけてやるわよ」 「……マジで?」 「マジ。男に二言はないわ。女にも二言はないけどね」 「わかりました」  利害関係が一致した田村とグータッチを交わす。 「今日上がりでしょ。さっさと甥っ子に話付けてきて」 「わかりました。お先に失礼します」  荷物を手早くまとめ、司に会うべく寛子の家へと車を走らせる。  暗くなった夜空に一番星が見える。  その一番星に、救われますようにと自然と願ってしまう。  それは罪を犯すことになった瑞実か、幼馴染が罪を犯していることを明かさなければならなくなった司か。亡くなってしまった恋夏か心に傷を抱えている菜子か、声を上げることができない子どもたちはわからない。  ただ一人でも多くの子どもが救われますように、救うことができますようにと思う。  運転に集中すべく、翔子は前を向く。  夜空では翔子の思いに答えるかのように、星々が輝いていた。
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