姿を消した少女

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 私はできませんでした。考える間もなく「うん、いいよ」と言う自分の声を聴きました。私ってこんな声しているんだと、どこか他人事のように思いました。自分の声なのにおかしいって、彼女なら笑いそうですね。私もどうしてそう聞こえたのか、今でもわかりません。  どうしてだろうと考えた次の瞬間、彼女が私の唇に自分の唇を重ねたことで私の思考は停止したのですから。  十二歳、初めて唇に触れた他人の唇の柔らかさ。さらさらと流れる茶色がかった髪から香る花のような甘い匂い。彼女の唇が離れるまで、たった数秒のことだったと思いますが、時間が止まったような気がしました。  触覚と嗅覚を彼女という存在に奪われた私は、心まで奪われてしまいました。それくらいで、と思われるかもしれません。それくらいで、です。  それくらいで私の心をつかんだ彼女は将来、どんな女性になるのだろうと思いました。魅惑的な笑みを浮かべる悪女、魔性の女って言葉が合いそうですね。そんな彼女も将来、私のことなんか忘れて誰か素敵な男性と結婚するのだろうと思います。そんな男性が現れるまでは、彼女のそばにいたい。彼女を守りたいと思いました。  同性の彼女に対するこの感情を恋と呼んでいいのでしょうか。彼女は否定するでしょう。それでも、私にとっては初恋でした。叶わなくていいから、彼女のそばにいたい。  たとえ私の身に何があっても、彼女の役に立てたのなら幸せだから。  あなたに会えてよかった。友達になってくれて嬉しかった。  司くんにもよろしく伝えてください。  ……ごめんね。  ありがとう。  山内瑞実』
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