離れる距離

1/2
前へ
/12ページ
次へ

離れる距離

 そして、夏祭りの前日。  それに、今日は夏休み前の最後の登校日だ。  今はホームルームで夏休みの色々な説明を聞いてるところ。  この話が地味に長いんだよね……。 「夏休みの課題、かなり量が多いよな」  来栖くんが小声で話しかけてくる。 「うん、わかる。特に英語の課題なんて問題集からしか出されてないけど、全部プリントアウトしたらかなりの数になると思う」 「そうだよなぁ。夏休みだからって気を抜かないようにしないと」 「でも、明日ぐらい思いっきり楽しんだ方が良いんじゃない? 小学校の頃の友達と会うんでしょ?」 「そうだな、卒業式以来だから会うのが楽しみだ」 「そっか」  会話が途切れる。  もっと、来栖くんと話したいのに、話題がない。  来栖くんの方を見る。  来栖くんはどこか悲しそうな顔をしながら、黒板の方を見て、静かに先生の話を聞いていた。  んっ?  来栖くん、なんで悲しそうな顔をしているんだろう?  私、何か変だったかな!?  来栖くんを悲しませちゃったのかな……?  あぁ、ダメじゃん。  好きな人のことを悲しませちゃ。  私は来栖くんの笑顔をみたいだけなのに。  なのに、悲しませちゃ――。  キーンコーンカーンコーン  チャイムが鳴る。  今日はもう、授業が無いからあとは帰るだけだ。  号令がかかって、授業が終わる。  その瞬間に、来栖くんがどっか行ってしまう。  そして、来栖くんと入れ替わるように結がこっちに向かってきた。 「なんか、さっき話してたよね!? 何話してたの?」  結の席は廊下側の一番うしろの席。  だから、後ろを見なくても横を見るだけで私達の様子がわかるのだ。 「ちょっと、夏祭りのことについて話してたんだけど……私、来栖くんのこと、悲しませちゃったのかもしれない」 「えっ?」 「なんかね、会話が途切れたあとに悲しそうな顔をしてたんだ。それで、なんか悪いことしちゃったかなって。授業が終わったあと、すぐにどっか行っちゃったし」  そこまで言うと、結はうーん、とうなりながら考え込む。  私には来栖くんが考えていることはよくわからなかった。  結ならまた、なにか―― 「これはあたしにもわからないなぁ。颯太が悲しそうな顔をすることがあまりないし……」  結にもわからない。  一体、なんで来栖くんはそんな悲しそうな顔をしてたんだろう?  このまま、ちょっと気まずいまま夏休みに入ったら――  モヤモヤしたまま夏休みが明けちゃって……  ああもう、これ以上考えたくない!  なんとかして、このギクシャクをどうにかしないと……!  でも、どうしたら良いんだろう? 「杏ちゃん? 大丈夫?」  結の声がしてハッとする。 「大丈夫……。それにしても、どうしよう……。このまま、話さなくなっちゃったらどうしよう……!?」 「まぁまぁ、落ち着いて。まずは、なんで悲しそうな顔をしていたのか、突き止めないと」 「でも、どうやって?」 「それは、あたしに任せて!」  ……結は何をやるんだろう?  今は、結を信じよう。  そう決意した私はチャイムが鳴ると同時に自分の席に座った。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加