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離れる距離
そして、夏祭りの前日。
それに、今日は夏休み前の最後の登校日だ。
今はホームルームで夏休みの色々な説明を聞いてるところ。
この話が地味に長いんだよね……。
「夏休みの課題、かなり量が多いよな」
来栖くんが小声で話しかけてくる。
「うん、わかる。特に英語の課題なんて問題集からしか出されてないけど、全部プリントアウトしたらかなりの数になると思う」
「そうだよなぁ。夏休みだからって気を抜かないようにしないと」
「でも、明日ぐらい思いっきり楽しんだ方が良いんじゃない? 小学校の頃の友達と会うんでしょ?」
「そうだな、卒業式以来だから会うのが楽しみだ」
「そっか」
会話が途切れる。
もっと、来栖くんと話したいのに、話題がない。
来栖くんの方を見る。
来栖くんはどこか悲しそうな顔をしながら、黒板の方を見て、静かに先生の話を聞いていた。
んっ?
来栖くん、なんで悲しそうな顔をしているんだろう?
私、何か変だったかな!?
来栖くんを悲しませちゃったのかな……?
あぁ、ダメじゃん。
好きな人のことを悲しませちゃ。
私は来栖くんの笑顔をみたいだけなのに。
なのに、悲しませちゃ――。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る。
今日はもう、授業が無いからあとは帰るだけだ。
号令がかかって、授業が終わる。
その瞬間に、来栖くんがどっか行ってしまう。
そして、来栖くんと入れ替わるように結がこっちに向かってきた。
「なんか、さっき話してたよね!? 何話してたの?」
結の席は廊下側の一番うしろの席。
だから、後ろを見なくても横を見るだけで私達の様子がわかるのだ。
「ちょっと、夏祭りのことについて話してたんだけど……私、来栖くんのこと、悲しませちゃったのかもしれない」
「えっ?」
「なんかね、会話が途切れたあとに悲しそうな顔をしてたんだ。それで、なんか悪いことしちゃったかなって。授業が終わったあと、すぐにどっか行っちゃったし」
そこまで言うと、結はうーん、とうなりながら考え込む。
私には来栖くんが考えていることはよくわからなかった。
結ならまた、なにか――
「これはあたしにもわからないなぁ。颯太が悲しそうな顔をすることがあまりないし……」
結にもわからない。
一体、なんで来栖くんはそんな悲しそうな顔をしてたんだろう?
このまま、ちょっと気まずいまま夏休みに入ったら――
モヤモヤしたまま夏休みが明けちゃって……
ああもう、これ以上考えたくない!
なんとかして、このギクシャクをどうにかしないと……!
でも、どうしたら良いんだろう?
「杏ちゃん? 大丈夫?」
結の声がしてハッとする。
「大丈夫……。それにしても、どうしよう……。このまま、話さなくなっちゃったらどうしよう……!?」
「まぁまぁ、落ち着いて。まずは、なんで悲しそうな顔をしていたのか、突き止めないと」
「でも、どうやって?」
「それは、あたしに任せて!」
……結は何をやるんだろう?
今は、結を信じよう。
そう決意した私はチャイムが鳴ると同時に自分の席に座った。
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