それでも愛がたりなくて

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このところ急に賢治の残業が増え、必ず二人一緒だった夕食も、塔子一人で済ませることが増えていた。 仕事だから仕方がない、と思いつつも、今まで滅多になかった残業が突然増えたことに、不満を抱かないわけがない。 「ねえ、残業ってまだしばらく続きそうなの?」 サラダの入った器を賢治に差し出し、塔子は賢治の顔を覗き込んだ。 「んーどうだろう。わかんないなあ」 賢治がレタスを口に運んだ。  「そうなんだ。そのうち、休日出勤もなんてことにならないよねえ?」 「それはないだろ、多分……お! このドレッシング旨い」 賢治がフォークに残ったドレッシングを舐め取った。 「やっぱり! 賢治も絶対好きな味だと思ったんだー」  今しがた口にした不満も忘れて、嬉しさで頬が緩む。日々を共に過ごす夫婦にとって、食の好みは重要だと思うのだ。食の好みが合う人とは、身体の相性もいいと耳にしたことがあったが、それは一理あると思った。 賢治の出勤時刻になり、塔子は玄関まで見送りに行き、キスをする。 もう何年もしていることなのに、時々賢治は照れた顔を見せる。 塔子はその顔が堪らなく好きだった。
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