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数日後、連絡を受けた塔子は事務所を訪れた。そして、調査員から数十枚の画像を見せられた。
そこに写っていたのは確かに賢治だった――が、場所は飲食店でもホテル街でもなく、全て海だった。真っ暗な中、海に面した堤防に一人で立つ賢治が写っていた。
「旦那様は、仕事を終えて会社を出ると車を走らせて、毎晩お一人で海に行かれてました。帰宅時間はまちまちでしたが、途中どこかに立ち寄ることも一切ありませんでした」
数日間調査してもらった結果がそれだった。あまりの予想外の結果に、驚きと気恥ずかしさを覚えた塔子は、詫びるように礼を言い、足早に事務所を後にした。
自宅に戻りいくら考えても釈然としなかったが、しばらくすると塔子は急に胸騒ぎを覚えた。
知らなければそれなりだったが、場所が場所だけに、よからぬ思いが脳裏を掠め、いてもたってもいられなくなり、次の瞬間にはタクシーを呼んでいた。
そして一通のメールを送信した。
『今までありがとう 奥様を大切に』
送信が完了すると、塔子は鈴木のアドレスを消去した。
到着したタクシーに慌てて乗り込み、行き先を告げる。
走り出したタクシーの後部座席の窓から空を見上げた。
今夜は雨の予報だったが、賢治はいるのだろうか。賢治が何を思って毎日あの場所に行くのかはわからなかったが、どうしても今すぐに会いたかったのだ。
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