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結局俺の違和感の原因はわからないまま、いつもと変わらず授業が始まり俺はそのうち朝感じた違和感のことなんか忘れ去っていた。
だって、俺には放課後あの手紙を出してきたヤツとの対決って大問題が控えている。
そんな俺にとって、その違和感は引っかかりはしたけれどいつまでも気にしているようなことじゃなかったんだ。
異変は、二時間目の授業の途中に起こった。
廊下からパタパタと小走りな足音が近づいてきたと思ったら、教室に二つあるドアのうち、黒板寄りの方がギシ……と開いて(ちなみにうちの学校のドアは引き戸じゃなくて全てドアノブを回して開ける方の、本当にドアなんだ)、
「一条さん、ちょっと」
とドアの隙間から顔を覗かせてきたのは一年の学年主任だった。
呼ばれて連れていかれるまま入った理科準備室には、スーツ姿のなんだか強面な男二人が俺のことを待ち構えていた。
座って、と促されるまま椅子に座る。
座った俺を二人の男が両脇から見下ろしてくる。
威圧感が半端ない。
女子だったら泣いちゃってるぞ。
こちとらガワはともかく中身は男だから(なんだ、コイツら?)って反発する気持ちの方が強いけどな。
チラッと部屋の隅を見ると、俺を連れてきた先生は部屋の隅に立って不安そうにしている。
俺は助けてもらうのをさっさと諦めた。
助けるとか助けないとかそういうんじゃないんだろうな、多分。
ここに連れてこられた理由はよくわからないけど、なんか絶体絶命っぽいな、俺、とぼんやり考える。
男のうち、一人は痩せてヒョロ長い印象だった。ニワトリみたいに目を見開いて少し猫背気味な男を見て俺は、
(デカっ。高藤よりデカいじゃん)
と感じた。そう思ってから、(ア……)となる。
いつの間に判断基準の起点が高藤になってる。なんとも言えない気分だ。
「君が一条志信さん?」
と言ってきたのはさっきとは別、もう一人いる背の低い方の男だった。
こっちはめちゃくちゃガタイがいい。ぴちぴちのスーツから今にも筋肉が弾け出してきそうな雰囲気だ。俺の目を引いたのはこいつの餃子みたいな耳だった。そういえば前にテレビで見た柔道選手の耳がこんな形をしていた。畳で擦れて凹凸がなくなったって感じのツルッとした茹でたて餃子。
(二人一組で行動って……まるでテレビドラマの刑事じゃん)
と考えてギョーザの質問に答えずにいたら、めちゃくちゃ睨まれた。
「一条志信さんだよね」
「……あ、はい」
答えたのに、男二人は意味ありげに目配せしあって無言。
印象悪ぅっ。
人に名前聞いておいて自分たちは自己紹介無しかよ。
クッソ……。俺は頭の中で、背の高い方はヒョロ、ガタイが良くて低い方はギョーザと勝手に命名した。
「昨日の夜二十一時から二十四時の間、君は誰とどこにいた?」
と、ギョーザがドスの利いた声で質問してきた。
うわ、マジ警察じゃん……。
「なんでそんなこと聞くんですか」
「筆問しているのはこっち。答えろ」
ギョーザはとことん嫌な感じだった。
(コイツ絶対彼女いないだろっ)
睨むだけで堪えた俺を誰か偉いと褒めてほしいっ。
「……寝てました」
「君ねぇ、それじゃ答えになってないよ」
「黙っていると余計疑われるよ」
とヒョロが猫撫で声で言う。
「夕方行われた生徒会で、一人の先輩とひどく揉めたそうだな」
ギョーザの方はあくまでも俺を押しつぶすつもりでいるっぽい。
俺が揉めた相手で先輩って……。
「……端神先輩のことですか?」
「質問してるのは、こっちなんだよ」
ギョーザが俺の目の前の机をドンと叩いて怒鳴る。
隅っこからハラハラとコチラを見ていた学年主任がヒッと肩をすくめる。
俺は心の中で自分に(女子高生だー、女子高生だぞー)と言い聞かせた。
「何なんですかあなたたち。授業中に呼び出して。聞き方も横暴だし」
「端神さんをずいぶん嫌ってたんだって?」
ギョーザが俺の返事に被せてたたみかけてくるから俺もムッとせずにいられない。
(ったく、なんなんだよっ!)
「嫌ってなんかいません。少し、意見の食い違いがあっただけです」
椅子から立って餃子に詰め寄って言うと、ヒョロが間に立ってまぁまぁと宥めてきたけど、怒りは治らない。
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