2 さざなみと、合わせ鏡の教室

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 そんな俺に今度はヒョロが、 「君が彼女に随分腹を立てていたと、その場にいた生徒たちから聞いています」 口調だけは丁寧に言ってくる。 (ヒョロよ、いくら口調が丁寧でもお前のことも嫌いだかんな) と睨んでいると、ヒョロがため息をついた。 スッゲェ、嫌味なため息、ね。。 「話を聞いたときは俺だって腹を立てたよ。端神さんの発言は男尊女卑ならぬ女尊男卑だよね。真面目で優しい君は端神さんの極論が許せなかった。それにしたって……」  わざとらしく途中で切ったヒョロの台詞を、したり顔のギョーザが、 「殺すまで行くかね。全く、最近の若ものは」 とひきついだ。俺は思わず、 「はぁっ?!」 と声をあげていた。 「はぁ?」  いやらしい感じでギョーザが俺の顔を覗き込んでくる。  そこでようやくたまらなくなった学年主任が、俺たちの会話(……会話になっているとは思えん)に割り込んできた。 「いっ、一条さん、他の子たちのアリバイは、はっきりしているの。後はあなただけ。ちゃんと言わないと疑われて困るのは一条さんなのよ?」 「なぜ私が疑われるのか納得がいきません。考えの違いで衝突することは誰だってあることでしょ。そのくらいで……」 「俺ら、そのくらいで人殺しをする奴らをよく見てるんで」  ギョーザ野郎が俺の手首を掴んでひねり上げた。あまりにも急な動きに避けきれなかったんだ。そして手加減がない。コイツら、俺を犯人にする気かよ!? 「ちょっ、痛い! 離して……は・な・せッ」  最後の「はなせ」で若干女子のメッキが剥がれてしまったには致し方ないと思ってくれ。  マジ痛ぇ!  その後の俺の行動はホント衝動でしかなかったというか……。  ギョーザに抵抗する風で腕を引いて、奴が反対に引っ張ってくるのに力を乗せて引いていたのをあっさり押し返すことで俺の手首を掴んでいた手を外させる。  俺の首根っこに伸びてくる手をかいくぐって教室を飛び出した。 よく捕まらなかったもんだ。  玄関まで行って靴を手にした俺だったけど、階段をバタバタと降りてくる複数の足音を耳にして別の階段を登ることにした。 様子を見に出てきた先生たちの目に映らないように靴をスカートの影に隠す。さすがお嬢様学校。騒がしいのに教室から出てくる生徒はいない。  急ぎたい。でもゆっくりと。  先生の姿が見えなくなったら足音が立たないように上靴を脱いで靴下で駆け上がった。  着いたのは屋上だ。  素直に学校の外へ出て行く方が絶対に捕まる。だから警察がはけるまで屋上で待とうって考えたわけ。  俺って賢〜い。  だが屋上に出た途端俺はぐいと手首を掴まれてしまった。 「痛た……っ」  すごい力で誰かに引っぱられたんだ。 (捕まった!?) これで俺は殺人犯なのか、という絶望感で目の前が真っ暗になる。 俺の考えなんて、 あのいけ好かない刑事たちにすっかりお見通しだったのかーー……。 ……という敗北感で思考停止状態の俺の耳に、 「邪魔しにきたんですかっ」 という高い声が飛び込んできた。 鋭い問い。尻餅をついていた俺は声の相手をまじまじと見上げた。 「止めないで。あたしの気持ちは変わらないから」 「……誰?」 「……私のこと、止めに来たんじゃないの?」 「何を?」 「自殺しようとしてたから」 「バッ、バカか。死ぬとか嘘だろ」 「嘘じゃないし。どーせ私バカだから」 「待って、待て待て待てぇ」 「何よ」 「バカじゃない。死ぬな。話聞いてやるから、ちょっと死ぬの……やめてください。お願いっ……します」
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