1 境界線上の俺

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「まさかその歳で、オナニーしたことがないなんて言わないよな」  低い声で唸るように言われてゾクッとした。  そして、多分これが高藤の素の声だろう、と俺は直感した。  教師の顔をしているときはもう少しトーンが高くて少し耳障りなかすれが混じってるんだけど、今のは地を這うような低音で凄んでないのに俺の心臓を鷲掴みするかの迫力があって……。  ドクン、と心臓が跳ねた。 (なんだ? 俺……なんかおかしいっ)  急に、身体中の熱が股間に集中し始めて何かが駆け上がってくる。  腹の奥でこもった熱が行き場を求めてぐるぐるうねりだすけど、俺は出し方がわからない。  こうなるとただただ苦しくて。  でも、マジで無理なんだ。 「嫌だ。出すとか……キモいッ」  熱を吐き出せないもどかしさと辛さで、目尻にじんわり涙が浮かぶのを止められない俺は、上目遣いで高藤を睨んだ。  口に出す気は全然なかったけど、実は俺、心の中では高藤に〈助けて〉って叫んでたんだ。  そしたら「うっ」となぜか胸のあたりを抑えた高藤が、 「若い奴は週五でするもんだろ」 と返してきた。 (なんだよっ。先生のくせして) ……助けてくれるんじゃないのかよ。 「ふっ……ふぐっ……うぅ〜……」  ただただ俺を見下ろしてくるだけの高藤に、とうとう俺は泣き出してしまったんだ。 「先生、わかってる? 俺デキないんだって。なんで急にこうなっちゃったのかもわかんないし……も、ヤダ」  今思えば、その時の俺は、自分の意思とは関係ない自分の体の反応にパニックになっていたんだと思う。  どうして、縋りついちゃったんだか……。 「仕方ない……」  重たいため息を吐いた高藤は、ベッドに座る俺の前にしゃがみ込んだ。  そうすると俺の膝の間に高藤の頭が入り込む格好になって。   恥ずかしさと驚きで涙が止まった。  その後……。  他人に下着をずらされて、自分でも触ったことのないソコを露わにする日がくるなんて思いもしなかったよ、くっそ。  高藤の大きくてがっちりした手が俺自身に触れようとした時、ビクッと身体に震えが走った。  今度のはマジで嫌悪感からの震えだった。  抑えようとしても膝が笑う、歯の根が合わない。  身体がこわばってマジで恐怖してるのが伝わったたんだろう。高藤が俺のちんこ越しにチラッと見上げてきた。 「もしかして、手で触られるのがダメか?」 と聞かれて頷いたのはほとんど無意識だった。  頷いてしまってから、(しまった)と思った。「それじゃ、やめましょう」って言われるんじゃないかって思ってさ。  いつの間にか、俺は高藤によって解放されることを期待していた。 「やめないでっ……お願いします」 つい口をついて出た言葉に俺自身がびっくりして手のひらで口を抑えて恐る恐る見ると、高藤が唇の端を上げてフッと笑った。 「安心しろ。きっちり、ヨくしてやる」  高藤の前髪をかき上げるしぐさに俺の頬が熱を持つ。  切長な瞳が露わになって、俺に(全部見せろ)と無言で命じてきて……。  パクッと咥えられ。俺はいとも簡単に、あっけなく、果てた。  後処理もセンセイがしてくれた。 「くそ……こんなの、こんな恥ずかしいコト、誰ともするわけじゃないんだかんな……」  ぐずぐずと鼻を鳴らすと、抱きしめてくれて。 「わかってる。困ったらいつでも言え。手伝ってやるから。ただし、手伝いをするのは俺限定だからな。他のヤツとやったりしたら……」  耳元で思い切り不穏な声を出されて。  でも、どうしよう。  全然嫌じゃなかった。  俺に縛りをかけてくる、まるで脅し文句のようなセリフも、コイツの口内でいやらしく甘やかされたことも。  で。思わず、 「馬鹿ッ」 って、言っていた。  しかも、突き放すんじゃなくて俺の方からも抱きついて、さ。
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