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2 さざなみと、合わせ鏡の教室
締め切った教室内は少しカビ臭い匂いがした。
「はっ、はっ……」
床に積み重なっている何枚もの油絵。
片足が折れ、横倒しになったままのイーゼルは、何年拾い上げてもらえてないんだろうか。
そんなガラクタたちは、この部屋が何年も使われていないと暗示するアクセサリーでしかなく。
この部屋の奇妙さを演出しているのは、教室内の西側と南側の壁に貼られている天井まで届く大きな合わせ鏡だった。
俺はその鏡の前に足を広げて座らされ、高藤に前をしゃぶられている。
二回目を放出したばかりの体はくにゃくにゃで、特に下半身は甘だるい痺れに支配されて動かす気力も出てこない。
後手に床に手をつきひっくり返らないように突っ張っている腕もプルプル震えて限界に近い。
「……終わり?」
と、気だるさを隠さず聞くと、手の甲で口を拭った高藤がふっと笑って、
「んー、最後の仕上げがまだ」
と言う。
左腕にはめた時計に視線を落とし、
「今日はどのくらいでイケますかね」
と意味深な視線を寄越してきた。
高藤の意図を瞬時に理解した俺は立ち上がってさっさと逃げようとしたのだが……頭で考えている通りに体のほうは動いてくれなかった。
突っ張っていた腕が限界を迎えてしまったんだ。
手汗で手のひらがぐちょぐちょだったのもいけなかった。
(あっ……)
立ちあがろうと手のひらで床を押した瞬間、ずるっと体勢を崩した俺は後頭部から後ろに引っ張られるように倒れ込み……。
頭を打たなかったのは胸を合わせるように伸び上がってきた高藤が俺の背中に腕を巻きつけ反対の腕で二人分の体重を支えてくれたからだった。
そこからのコイツの行動が素早かった。
俺を床に横たえた手が流れるように制服のベストの前をかけシャツのボタンを外してゆく。
もう、ブラジャーをしているのを見られるのには慣れた。
膨らみを持たせるために詰めていたプチプチ(梱包に使う、ビニール製のアレ。丸く膨らんだ空気の入った粒々を押して潰すとプチっと弾けて癖になるやつ)を引き出される。
高藤の目に晒された俺の胸の二つの突起は既に期待に震えて立ち上がっていた。
五月くらいからかな。
下の方だけじゃなく、上までしゃぶられるようになったのは。
高藤は、手でされるのが無理な俺を尊重して(手でデキるなら自分で処理してるし)したと口をフルに使って〈お手伝い〉してくれるんだけどさ。
「いつも同じ刺激では、飽きてしまいますよね」
って……。
そう言われた時俺はぼんやり、
(コイツが丁寧語じゃなかったの、入学式のあの時だけだったんだよなー……)
なんて考え込んでたんだ。
その間にシャツのボタンを外されていたことに気づいていなかった俺は相当な間抜けだったと今更ながらに思う。
そして教えられてしまった新しい扉。
「かわいい……期待して。千切れる勢いで主張していますね、志信くんのこれ」
ふぅ、吐息を吹きかけられて胸を突き出してしまったのは……、単なる条件反射だかんなっ。
俺の残滓でヌメつく舌が絡みついてくる。
固く尖らせた先で突かれ舌の腹で押しつぶされ転がされ……。
「ふっ……う、う、うっ、ン」
片方されただけで達してしまった俺って……もぅ、一体何なの。
コイツの唾液まみれになった右胸が空気に触れてひんやりと冷たい。
それに反して左胸は触れられていない不満と今度はこっち……という期待でじんわり熱を持ったまま。
なのに高藤は体を離すと、ずらしていたブラの位置とプチプチを戻してシャツの前を止めてしまった。
俺が放った白濁を、取り出したハンカチで拭き取り素早く後処理を済ませる。そして俺と自分の着衣を整え、俺を手を取って立ち上がらせた。
「な、なんで止めんだよ」
思わず口をついてでてしまった俺のつぶやき。
(俺、ばか……。コレじゃおねだりしてるみたいじゃん)
恥ずかしさで、下唇を噛んだ俺をどう思ったのか。高藤は宥めるような優しい仕草で俺の頭をポンポンしてきた。
「この後、生徒会でしょう? 一年なんだから遅れるのはマズい」
「わかってる」
むぅ、と唇を尖らせた時……。
「!」
窓の方で何か音がした気が。
「どうしました?」
と高藤が俺の顔を覗き込む。
頭にのぼっていた血がザァっと音を立てて引くのがわかる。
(まさか? 誰かに見られた?)
今の行為をっ!?
自分の想像にゾッとなりながら俺は高藤の背後に隠れた。
俺の動作に目を丸くするコイツの鈍感さに歯噛みしながら、
「外……今、音がした」
と、小声で言った俺を背中に隠したまま高藤は窓際まで寄っていく。
ガラリと開けた窓の外は六月の雨が降り注ぎ、その勢いでまるで白いカーテンが景色に幕を張っているように見える。
高藤はそんな雨に少し前髪を濡らしながら窓の外を見回して、
「誰もいませんよ」
と、俺を振り返った。
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