1 境界線上の俺

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1 境界線上の俺

俺は自分のことが嫌いだ。 だって、嘘つきだから。 俺の身体も心も……。  ***  この俺の状態をどう表現したらいいのか。  例えるなら、ガラスのコップの淵に立たされて、足一本でグラグラ左右に傾ぐ体をなんとか水平に保とうとしてんのに、そんな俺のことは他から笑って見てる奴がいて、悪戯にひょいと伸ばした指先で脇腹ついてくる、みたいな、さ。  一本足で踏み堪えてるコップの淵の左と右、あっち側とこっち側。  俺はどっちにも落っこちられない人間なんだ。  *  俺たち以外、人気のない部屋にクチュクチュといやらしい水音がひそやかに響いている。 「……んぅっ。バカ……も、やめろよぉ」  身体の奥のもっと奥にこんな熱がくすぶっていたなんて。 (こんなの……っ、知らなかった)  身をよじって逃げようとする動作がかえって両足を大きく広げる結果になってしまった。 「ふ……、積極的ですねぇ……」  俺の股間に顔を埋めていた相手が一旦顔を上げ喉を鳴らして吐息だけで笑う。  そんなことされると下の毛がそよいでこそばゆくて、臍の下の力がヘコッと抜けてしまう。  出したいけど出したくない。  出したくないけど、しょーもないくらい出したいっ。  再びパクリと包み込まれる。相手がクライマックスに向けて動きを加速する。  激しくなった水音が耳に粘っこくまとわりついて、俺の下半身が自分の意思とは関係なく、ヒクンッ、ヒクンッと小刻みに宙に浮き出した……。  恥ずかしいからあえて抽象的に言わせてもらう。   仮に俺がコップとして、このどうしようもなく押し寄せてきてどこにも逃しようもない快感が水だとしたら、もう水が表面張力を超えてダラダラとコップの壁を垂れてまさに流れ落ちるところなわけで。  限界まで開かされた俺の内股がピクピクと震え出して切羽詰まった俺が覆いかぶさっているコイツの背中を何度も叩くのに、この野郎は俺自身を咥えて離そうとしない。  それどころかもっと喉奥に俺を飲み込んできた。唾液と舌と自分の喉を使って、ついでに俺の先っちょから垂れてるぬめりも利用して、俺を真っ白にするあの高みにつれて行こうとしてる。  尻の奥から背筋に向かって甘い痺れがギュンって駆け上ってきて。  俺はぎゅっと目を閉じ眉根を寄せた。 (ダメだ……も、無理……) 「ンっ!」  ビクビクっと下半身が痙攣したかと思うと、俺は自分の欲望をコイツの口ん中に思い切り放出してしまっていた。 (き……気持ちぃー……)  ズン、と落下する錯覚。 (……イッたぁ……)  イっちゃったよぉ。  いつの間にかぎゅうとつぶっていて両目を細く開けると、床にへたりと落ちている俺のスカートが目に入る。 力を無くした俺の竿に、分厚い舌がじゅっと張り付き、名残惜しそうに離れていった。  暖かな口内から吐き出されて外気にさらされた俺の性器が悲しげにうなだれている。 (……いや、寂しくない。寂しくないからっ) と、俺は自分の身体に言い聞かせる。  そうしないと、それ以上をねだりそうな最近の自分が怖い。  そんな自分の気持ちの変化が流されているだけなのか本心なのか分からないところが怖くて仕方ない。 「……くっそエロ教師。また飲み込んだのかよ」
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