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いつもそうだ。
姉の詳子ばかりが優遇され、私はどんな時もぞんざいに扱われてきた。
私などまるで存在しないように、会話が飛び交い目が合うこともない。私が話しかけようとしても私の側をすれ違っても、みんな空気のごとく通りすぎていく。
詳子は明日、結婚式を迎える。
当然私は、それを知らされることもなく、家で一人留守番だ。
「ミキ!」
久しぶりに、その名前を聞いた。確かに聞き馴染みのある名前。それは私の名だ。
呼ばれた方向に顔を上げ目を開けると、詳子が私を見つめている。
詳子は、ポーチから真っ赤なルージュを取り出し、私の唇にそっと触れ優しくリップをひいた。
それは、少し大人びた子どもがおしゃれに目覚める瞬間に似ていた。
そうだった。小さい頃はこうして二人でおしゃれをしたり、思い切り背伸びして好きな人のことをお喋りしたり、何でも話せる仲だった。
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