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私は、自力で動いたり話しかけたりすることができない。だから、そんな私が疎ましく思えたのか、関わりたくないと感じたのか。また、そんなふうに考えてしまう自分が情けなくなった。
詳子は、そのことに気付いていたのだろうか。
窓際に降り注ぐ朝日は、小さくカーテンを揺らしながら詳子を一段と美しく輝かしていた。
きらびやかな照明を浴びた女優が演じる一人芝居のように、詳子は小さな笑みを見せて語り出した。
「ずっとここにいてミキが私を見ててくれたこと、ちゃんと知ってるよ。私はこれから結婚するんだ。そして今日、ここを出ていくの。この先どうなるかわからない。子どもだってもちろん欲しい。そうなったらきっと、もうミキとも会えなくなるね。でも、生まれてきた子どもには、ミキみたいな存在が必要なんじゃないかなと思う。私がそれで癒されたようにね」
詳子は何度も何度も微笑んだ。まるで私と離れることを喜んでいるようにさえ感じられた。
それでも久しぶりに詳子と話せた感覚が、私の閉ざされていた心を少しだけ軽くさせた。
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