『私』

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『私』

 山崎くんは、ストローが刺さった烏龍茶を片手に同期の輪へと入っていく。早速みんなを引っ張って行ってるようで何よりだ。 「釣れた、釣れた。これで3年はこのサークルも安泰ね。マニアックな映画予習しておいてよかった」  私は、手を叩いて、周りの部員に呼びかける。テーブルの割り箸を持って、ペンのように指図する。 「いい? 最低ラインはクリアした。あとはあいつを孤立させないようもう1人引き込むのよ。酔って騒いでるだけの奴は捨てて! 『100人のミーハーより、5人のガチ勢』」!   先輩方から引き継いだバトンを、私の代で終わらせるわけにはいかない。 「次の狙いは、彼。行くわよ」    ジョッキを持ち、次の獲物へ向かう。友達は、今の何か分かったかしら。 「正解。『ウォール街の朝』。私が一番好きなやつ」    でも、新歓対策のつもりで見始めた映画は、案外面白かった。そしてそれらに見事に山崎くんは反応している。恐らく本当に面白いのだろう。  彼なら、私の知らない映画をもっとたくさん知っているのだろうか。また明日、聞いてみよう。あと、カナダのウィンディーズも。  今はこの新歓を戦い抜くことだけを考える。 「こんにちはー! 1年生だよね?」    あそこまで偉そうに言ったけど、次劇場に行った時はちゃんと席に座っていよう。  そう。『映倫』が出るまでは。
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