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同棲している彼氏の裕二は、いつも愛を囁いてくれる優しい人。
でも、出版社の編集部勤務の私が、裕二を好きになったのは、裕二が優しいからじゃない。
裕二の才能に惹かれたからだ。
小さい時から読書が大好きだった私は、これまでに千冊以上の小説を読んできた。
さらに、編集者としての経験が5年ある。
私は、裕二が100年に1人の逸材だと確信している。
いつか裕二の本をベストセラーにするのが、私の夢。
「美里、ごめん。元カノの名前なんだ」
ある日、裕二がベッドの中で、別の女性の名を呼んだ。
裕二はすぐに気づいて、私に謝ってくれた。
だけど、その後も、裕二は、その名前を寝言で何回も呼んだ。
絶対に裕二は浮気をしている。
私は探偵を雇い、裕二を調査をさせた。
予想通り、裕二は浮気をしていた。
裕二に調査書を見せる。
裕二は泣いて謝り、2度と彼女とは連絡を取らないと言った。
そんな言葉、信用できるはずがない。
絶対に許さない。
「裕二を殺したい! 殺されたくないなら、スマホもパソコンも2度と見ないで。家から出ないで執筆に専念すると約束して」
私がそう言うと、裕二は「わかった。僕は、美里がいて、小説を書ければいい」と泣きながら約束した。
私は裕二に、インターネットに繋がらないタブレットを渡した。
裕二は私と話す時以外は、部屋に閉じこもって執筆している。
「この前の原稿はボツだったよ。だけど、裕二には才能がある。次こそ、出版出来ると思う。頑張って」
裕二にそう言うと、裕二はしばらく辛そうにしていたけど、「次こそ認めてもらえる作品を書くよ」と言って、また書き始めた。
裕二にボツになったと伝えた原稿は、現在は加納美里の作品として、本屋に並んでいる。
その本は何度も重版がかかり、あっと言う間に30万部を超えた。
裕二は、今日も、いつか認めてもらえるという希望を持って原稿を書いている。
ー完ー
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