1

1/2
前へ
/9ページ
次へ

1

 学校から帰ると、わたしは玄関の靴も揃えず、いつものように一目散に駆け出す。リビングから「ちょっとイオ。帰ったなら、ただいま、くらい言いなさい」とお母さんに叱られるが、そんなのは後回し。先に「ただいま」を言わなくちゃいけない人がいるから。  バタバタと階段を駆け上がり、自室のドアを勢いよく開ける。 「ただいまっ。お姉ちゃんっ」  姿を確認するよりも早く、わたしは大声で言った。何の確証もなかったが、お姉ちゃんが部屋で待ってくれていることは確信していた。 「おかえり。イオ。いつも元気ね」  勉強机に座りノートを広げていたお姉ちゃんは、こちらを振り返り微笑んだ。  ほらね。やっぱり、お姉ちゃんは待っていてくれた。だって、わたしのお姉ちゃんだもん。と、よくわからない理由で、何故か誇らしくなる。 「どうしたの? そんなに急いで。何かあった?」 「えへへ。だって、早くお姉ちゃんに会いたかったんだもん」 「もう。仕方のない子ね」  呆れてたしなめつつも、お姉ちゃんは笑みを絶やさない。さっきみたいに、わたしの行動を何かにつけて叱ってくるお母さんとは違う。  お姉ちゃんと二人、ベッドに並んで座ると、わたしは我慢できずにお姉ちゃんに抱きついた。授業での疲れが吸い込まれていくみたいに癒されていく。 「こら。先に制服を着替えなさい。シワになっちゃうでしょ」 「うーん。もう少しだけ」  どこかのバカップルか、おじさんみたいだな、と自分で言ってて思う。しかし、抗えないのだから仕方がない。わたしはお姉ちゃんの体に顔を埋める。 「中学二年生にもなって、子供みたいに甘えん坊なんだから」 「仕方ないじゃん」 「え?」 「お姉ちゃんが悪いんだよ」  お姉ちゃんは首を傾げる。突然、妹から甘える原因だ、と言われたのだから当然か。  顔を上げると、お姉ちゃんの髪が、サラサラとわたしの頬に触れる。お姉ちゃんの髪は長くて綺麗な黒髪で、ショートヘアのわたしは憧れている。本当はお揃いにしたいのに、お母さんが「長い髪なんて邪魔になるからやめときなさい。昔、お母さんも伸ばしてたけど、洗うのも大変なのよ。色んなところに引っかかっちゃうし」と伸ばさせてくれない。  髪の毛だけじゃない。お姉ちゃんは身長も高くて、スタイルもいい。顔だってテレビに出てる女優なんかに引けを取らないくらいに綺麗。性格だって、怒った顔を見たことが無いくらいに優しい。その上、勉強もできる。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加