1

2/2
前へ
/9ページ
次へ
 わたしと違って。ううん。比べるのもおこがましいくらいのパーフェクトお姉ちゃんだ。そんな自慢のお姉ちゃんの魅力に抗って、甘えないなんて出来るはずがない。 「よくわからないんだけど」 「とにかく、お姉ちゃんが悪いんだよ」  でも、恥ずかしいから面と向かっては言わない。  そんなパーフェクトお姉ちゃんが、男子にモテないはずがない。  今日だって……。 「ああ、そういえば」  わたしは、後回しにしていたことを、いま思い出したかのように言った。出来ることなら忘れたふりをしていたかったけど、相手がいるのでそうもいかない。  鞄の中から、白くて可愛らしい便箋を取り出し、お姉ちゃんに渡す。 「なにこれ?」 「わかってるくせに。いつもの。お姉ちゃんにって、知らない男子から渡されたんだよ」 「ああ」  合点がいったように、お姉ちゃんは頷いた。渡してきた男子のモジモジと恥ずかしそうな様子から、内容は見なくとも分かる。  ラブレターだ。告白の方法に今更ラブレターを選ぶなんて、古風だな、とわたしは思う。  お姉ちゃんは、わたしと違って男子にモテる。こうやってラブレターを貰うのだって、今回が初めてではない。もう何通も、いろんな男子から貰っているのを知っている。しかし、男子たちはお姉ちゃんを高嶺の花だと敬遠しているのか、何故か妹のわたし経由で間接的に愛の告白をするのだ。  その度にわたしは、直接告白する勇気もないのに、付き合ってもらえると信じているんだろうか、と疑問に思う。 「どうするの?」  わたしはおずおずと尋ねる。答えは予想できているが。 「んー。この子には悪いけど、断るよ」  お姉ちゃんはラブレターの内容も見ずに答えた。やっぱり、と予想は的中しつつも、わたしは胸を撫で下ろす。 「どうして?」  これまた答えは予想できているが、わたしはにやにやとしながら尋ねる。 「だって、私にはイオがいるからっ」  言い終わるのが早いか、お姉ちゃんはわたしにじゃれついてきた。ベッドの上で二人、おかしくて笑い合いながら、絡まり合って転げ回る。キャッキャと子供みたいに。  やっぱり、お姉ちゃんはどこにも行かない。ずっと、ずっと、わたしと一緒だ。 「イオー。そろそろ夕ご飯よー。降りてきなさーい」  階下からお母さんの呼ぶ声が聞こえて、わたしたちはピタリと止まった。それがまたおかしくて、クスクスと笑い合ってから「はーい」と返事をする。少し、息が乱れていた。  ベッドから立ち上がり、制服を着替える。 「ご飯だって。お姉ちゃん」 「うん。先に行ってて」  お姉ちゃんを残して、わたしは部屋を後にした。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加