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外はまだ明るく蒸し暑かった。
セミが鳴いている。
まるで鈴の音が高速で鳴っているような夏の音が耳をつく。
「あつ」
「あつ」
2人は同時に声を出した。
そして、何事もなかったように歩き出した。
田舎の役所は思ったより混んでいなかった。
躊躇いもあったが、あまりにもスムーズに事が運んで
あっと言う間に2人はお互いの出生の秘密を記す紙っぺらを手にしていた。
他人の空似である可能性も十分あった。
若者というのは今も昔も似たようなビジュアルを目指すものだ。
2人はフロアの一角に肩を寄せ合うと目と目を合わせて一呼吸した。
そして、せいの・・・で紙を手元に広げた。
「だよな・・」
「だよな・・」
お互いの紙には『養子』のふた文字が印字されていた。
やはり、双子に違いない。
2人は強く確信した。きっと一卵性双生児だろう。
あまりにも似ている。
この年まで別々に育っているのに
こうも路線を外れずに同じビジュアルでいられるものなのか・・
生命の神秘を感じずにはいられなかった。
「それにしても・・」
ポツリと旺羽が口を開いた。
そしてフッと白玖を指差して
「卵白」
それに呼応して旺羽を指差して
「卵黄」
2人はしばし見つめ合うと肩を震わせた。
そして、たまらなくなって声を立てて笑った。
「どんな親だよ」
笑いながら2人はユニゾンした。
そしてお互いに一息つくと
目で合図するように見つめあった。
「気になるよね?」
「気になるね」
そう言って『養子』のふた文字を見つめた。
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