0人が本棚に入れています
本棚に追加
2人の演奏とビジュアルは瞬く間に人々の関心を集め
動画も実演も動員数を伸ばしていった。
でも、2人の目的である親の情報とは縁がなかった。
そして夏が駆け抜け、秋の気配に虫の音の変化で気付かされる頃
白玖のリサイタルの準備が佳境になっていた。
しばらく今までのように舞台に立てないお詫びと
この夏のお礼を伝えた2人は
ステージの掃除をしながら、マスターに自分達の事を話し始めた。
最近出会った事、さらに最近双子だと気づいた事、2人で作る音楽が
サイコーだった事。
ひとしきり2人の話に耳を傾けていたマスターがおもむろに
写真立てをひとつ棚の上から持ってきた。
プライベート感のある一枚の写真にはウッドベースを抱えて静かに微笑む
顔立ちが整った綺麗な男性が写っていた。
その写真を見た2人は、強いシンパシーに胸が締め付けられた。
「人気のベーシストでね。甘い優しい風貌とは裏腹の激しく情熱的な音が
たまらなくてね。技術も桁外れで誰も真似ができなかったよ。」
マスターは泣きそうな顔の2人を交互に見ながら頷いた。
「君たちはよく似てるよ」
この写真の男性が父親なのかどうかは誰にもわからなかったが
埋まらなかった最後のピースがぱちっとハマったような心地よさを感じた。
最初のコメントを投稿しよう!