ソーセージエッグブラザーズ

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その日、旺羽がギタリスの動画を見漁っていた。 自分のレベルが知りたかった。 今まで兄が、父親と一緒に農作業をしていたが、兄は結婚が決まると 都会に出ると言ったのだ。弟の旺羽を見て父親は言った。 「お父さんも年だから、お兄ちゃんが出て行くなら畑を売ろうと思う。  旺羽がもし、農業に興味があるなら売らない。  ただ、旺羽はギターが上手だからやりたいなら好きなようにさせてやりたい  と思ってる。」 黙って聞いていた旺羽に父親は続けた。 「どうしたい? よく考えて答えを出して欲しい。」 農作業を知らない訳ではなかった。子供の頃から生活の一部だ。 ギターは好きだった。応募先から留学のチケットも届いていた。 この状況で留学なんてあり得るのだろうか。 今まで誰かに教わった事がなかった旺羽は 自分がどれくらい弾けるのか知りたかった。 そして、白玖に出会ったのだ。 白玖の音を聞いて本物を知った。 敵わないと思ったのと同時に自分にもできるように思えた。 2人のステージは常に白玖の支配下にあった。 湧き上がる自信と眩い気品は気高く美しかった。 音を聞けば白玖だとわかる素晴らしい音色は 更に白玖を高みに押し上げていた。 旺羽は自分の音が物足りなかった。 白玖は好きだと言ってくれたが 好きだと言ってくれる全ての言葉が信じられなかった。 夕飯が終わった後、父親を探して軒先を覗くと クロちゃんを優しく撫でているのが見えた。 クロちゃんもとても気持ちよさそうで口が開いている。 「クロちゃん・・お父さんは旺羽に何をしてあげられるんだろうねぇ」 たっぷり撫でられて、とろとろになってるクロちゃんに 「旺羽のギターは大地のようにあったかくってね。・・いい土なんだ    わ・・・」 旺羽は聞いてはいけないものを聞いてしまった気持ちで心臓がギュッと 締め付けられた。 父親の言葉は旺羽の意固地な思いを揺さぶった。 雷鳴のような白玖の音楽に全てを見ていた。 大地のような・・・ 父親に届いた旺羽のギターは心を肥沃にしていたのだ。 旺羽は思った。 「自分のギターを認められるようになろう」 そして、柱の影から軒先に向かって大声を出した。 「クロちゃん、お父さんにお願いして留学するよ。  お父さんなら、きっと応援してくれるよね!」 旺羽の声にクロちゃんは体を起こしてワンワンと鳴いて父親を見つめた。
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