殺人DNA

5/5
前へ
/5ページ
次へ
一週間前、明石先生に急に呼び出された。伝えておきたい事があると。 「修君、僕はもう長いことお父さんの主治医としてここにいる。お父さんは精神に異常をきたしているから、まともな会話が出来ない。ただね、一つ気になることがあるんだ」 「気になること?」 「あぁ。お父さんが最近ずっとうわごとのように言う言葉があってね。その言葉が、悪魔、人殺し、俺の息子はやらん」 「・・・どういうことです」 「これは、独り言として聞いてくれよ。もし、お父さんが君の母親を殺していないと仮定する」 「仮定も何も、ナイフには父の指紋がついていたんですよ」 「はめられたとしたら?」 「はめられた?」 明石先生はコーヒーを一口飲み、続ける。 「お父さんが帰宅したとき、もう母親は死んでいた。殺した犯人は指紋を拭き取った」 「じゃあどうして父の指紋がついているんです」 「分からない。お父さんが咄嗟にナイフに触ったのか、犯人が無理矢理触らせたのか」 「待ってください。それが事実だとしたら、犯人は」 「曾根崎美里だよ」 「・・・いやいや、そんなわけないでしょう。曾根崎美里はその後死んでいるんですよ」 「だから、仮定だと言っているだろう。悪魔、人殺し、俺の息子はやらん。全て曾根崎美里に言っているであれば、彼女は君の母親だけでは無く、君をも殺そうとしたのではないか。君を護るために、彼女を殺そうとしたのでは無いか」 「・・・その仮定には無理があります。何で一緒にベランダから落ちる必要があるんですか。それも三階。打ち所が悪くなかったら生きていますよ。第一僕を護るって、僕はその時叔父の家にいたんですよ。帰る予定は無かった」 「ベランダから落ちたのは、不慮の事故かもしれない。愛する妻を殺され、逆上したのかもね。私は思うのだが、悪魔っていう程、曾根崎美里は残酷な人物だったのではないか。生きているだけで、危険視するような」 「先生、それは仮定の話ですよね」 「あぁ。君は最近、曾根崎美里の家に行っていると言っていたね。何か彼女の事で、気になることはないかい」 明石先生の探るような目。 執拗に優の事を聞いてくる昭久さん。 幼い我が子に猫の死体を見せる母親。 そして、悪魔と呼ぶ実の父。 人殺しの息子と言われ生きてきた。そのDNAは受け継がれていると、人殺しと言われた。 もし父が殺していないとして。 犯人が曾根崎美里としたら。 そのDNAを受け継いでいるのは。 俺は道路の端で立って待っている優を見た。 優は右肘を触り、そして、笑った。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加