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一週間前、明石先生に急に呼び出された。伝えておきたい事があると。
「修君、僕はもう長いことお父さんの主治医としてここにいる。お父さんは精神に異常をきたしているから、まともな会話が出来ない。ただね、一つ気になることがあるんだ」
「気になること?」
「あぁ。お父さんが最近ずっとうわごとのように言う言葉があってね。その言葉が、悪魔、人殺し、俺の息子はやらん」
「・・・どういうことです」
「これは、独り言として聞いてくれよ。もし、お父さんが君の母親を殺していないと仮定する」
「仮定も何も、ナイフには父の指紋がついていたんですよ」
「はめられたとしたら?」
「はめられた?」
明石先生はコーヒーを一口飲み、続ける。
「お父さんが帰宅したとき、もう母親は死んでいた。殺した犯人は指紋を拭き取った」
「じゃあどうして父の指紋がついているんです」
「分からない。お父さんが咄嗟にナイフに触ったのか、犯人が無理矢理触らせたのか」
「待ってください。それが事実だとしたら、犯人は」
「曾根崎美里だよ」
「・・・いやいや、そんなわけないでしょう。曾根崎美里はその後死んでいるんですよ」
「だから、仮定だと言っているだろう。悪魔、人殺し、俺の息子はやらん。全て曾根崎美里に言っているであれば、彼女は君の母親だけでは無く、君をも殺そうとしたのではないか。君を護るために、彼女を殺そうとしたのでは無いか」
「・・・その仮定には無理があります。何で一緒にベランダから落ちる必要があるんですか。それも三階。打ち所が悪くなかったら生きていますよ。第一僕を護るって、僕はその時叔父の家にいたんですよ。帰る予定は無かった」
「ベランダから落ちたのは、不慮の事故かもしれない。愛する妻を殺され、逆上したのかもね。私は思うのだが、悪魔っていう程、曾根崎美里は残酷な人物だったのではないか。生きているだけで、危険視するような」
「先生、それは仮定の話ですよね」
「あぁ。君は最近、曾根崎美里の家に行っていると言っていたね。何か彼女の事で、気になることはないかい」
明石先生の探るような目。
執拗に優の事を聞いてくる昭久さん。
幼い我が子に猫の死体を見せる母親。
そして、悪魔と呼ぶ実の父。
人殺しの息子と言われ生きてきた。そのDNAは受け継がれていると、人殺しと言われた。
もし父が殺していないとして。
犯人が曾根崎美里としたら。
そのDNAを受け継いでいるのは。
俺は道路の端で立って待っている優を見た。
優は右肘を触り、そして、笑った。
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