殺人DNA

3/5
前へ
/5ページ
次へ
「息子と、優と遊んでやって欲しい。出来るときで良いんだけど」 頭を下げられる。 「あの、それは出来るだけ・・・。いや、でも」 そもそも弟がいると分かったのもつい先日だ。そんな急に言われてもこちらも整理がつかない。 「ごめん。いきなりこんなことを言っても混乱するよな。まずは会ってみてくれないか。出来れば、兄弟ということは伏せて欲しい。まだあの子は幼い。自分の母親の死の真相すら分かっていない。いや、僕も真相、と言われると分かっていないけど」 真剣な眼差しが、段々と哀愁を帯びてきた。曾根崎美里はどんな人だったのだろう。口を開き掛けた瞬間、ただいま、と元気な声が聞こえてきた。 廊下を走る音が聞こえ、リビングの扉が勢いよく開けられた。 「誰か来ているの?」 帽子を被り、半袖半ズボンの夏らしい格好をした少年は、入るなりそう聞いた。瞬間、僕の顔を見て会釈をする。そして昭久さんに目で「誰」と訴えていた。 「あぁ、彼は父さんの友達の息子さんだよ」 そう紹介する。僕は立ち上がり、近くによってしゃがむ。 「初めまして、鈴木修です」 「初めまして、曾根崎優です」 深々と挨拶する姿を見て、本当に小学生かと疑った。 「優君は、今何歳?」 「10歳。小学4年生」 しっかりしている。顔をまじまじと見る。くりっとした丸い目。スラッと伸びた鼻筋。なるほど、僕とは似ていない。母親の方に似たのだろう。 良かったな。 「優、今日はもうどこにも出かけないのか」 「もう一回行ってくる。喉が渇いて」 戸棚からコップを取ってお茶を入れた。 視線を感じ、振り向くと昭久さんが目で「一緒に行ってやってくれ」と訴えていた。 仕方ない。僕も、唯一の血の繋がった兄弟と交流を図るために来たのだから。 「優くん。僕も一緒に公園に行って良いかな」 「・・・うん、いいよ」 優くんが先に玄関へ走って行く。 探るように見てきた瞳は、どことなく大人びて見えた。 家から徒歩10分の所に公園はあった。ブランコや滑り台、うんていなど様々な遊具が並んでいる。 日曜日と言うこともあり、公園には子連れの家族で溢れていた。 ブランコに乗って後ろから父親に押して貰っている子供。 うんていで落ちないように支えられている子供。 その光景から目を離し、優君を見た。 優君はそれらを一瞥し、砂場の方へ走っていく。 黙々と手を動かし、何かを作っている。 「横で一緒に作っていいかい」 そう聞くとこちらの目をちらっと見て頷いた。 不器用で創造性も豊かでは無い僕は、砂をかき集めて一つの山を作るだけだった。創作時間僅か2分。 一方優君は、トンネルを作っていた。横に置いてあったスコップ・じょうろに入った水・バケツを駆使して黙々と作っていく。すると見事に大きなトンネルが出来た。僕の砂の山も取り込んでしまったけど。 「凄いの出来たな」 立ち上がり、汗を服の袖で拭う。 「おしまい」 そう言って、優くんは力一杯トンネルを踏みつけた。何度も踏みつけて、壊していく。 「折角作ったのに」 「いいの。どうせ、また作ればいいんだから」 「・・・そんなものか」 気のせいだろうか。 一心不乱に踏みつける優君を見て、この子の奥底にある危険な何かを感じた。 「ただいまー」 元気よく挨拶する優君とは対照的に、僕の声は小さかった。 「お帰り。遊んでもらったかい」 「うん」 いや、遊んでいない。走り回る優君の後についていっていただけだ。 優君が洗面所に走って行くタイミングを見て、昭久さんは聞いてきた。 「どうだった。優は」 たかが遊びに行っただけだと言うのに、何か重要な答えを知りたがっているように思えた。 僕は正直に答える。 「ちょっと、危うく感じました」 「・・・どのように」 昭久さんが目を見開いて聞いてくる。 「何か、大きなストレスを抱えているような、そんな気が」 「そうか」 肩を落としながら、まるでこの世の終わりのようなトーンでぼやいた。 「あの、また来てもいいですか」 「え、それは、もちろん。いいのかい。正直、休日は仕事だから、助かるよ」 「やっぱり、実の弟なんで。僕も気になります」 耳打ちをするように小声で呟くと、安堵したように「よろしく頼むよ」と笑った。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加