『ある姉妹についてのはなし』

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 いきなり自分の話にはなってしまうけど、僕の愛好する作家であるフランボワーズ・カウベルは5人の兄弟の末っ子であり、彼の本職はプロ野球選手だった。プロ野球選手としてはまずまずの成績を納めた彼だが、作家として彼が世に名が残ったかといえばそれはないに等しかった。彼には文才がなかったのだ。加えて、彼はプロ野球選手として活動するときの名前と作家として活動するときの名前を分けていた。だから彼がフランボワーズ・カウベルであったと世間が知ったのは彼が死んでから何年も後の話だった。  そんな彼の残した文章に僕と僕の友人は多大な影響を受けている。いい意味であれ、悪い意味であれ。             彼はプロ野球選手としては寡黙な人間だったが、彼の書く文章は生き生きとしていて、イギリス人らしい皮肉の効いたユーモアはある程度の読者の中で評判だった。 『幸せとは、時に自分の歩みを引き留める時に何より手強い枷になるものだ。だからその枷に縛られてしまったときは爪切りでも持ち歩いたらいい。そんなものは案外簡単に断ち切れるものだ』  この文章から分かるように、カウベルはやはり決していい作家ではなかった。完璧な文章などどこにもない。僕が彼から学んだことだ。  
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