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「俺の生涯の夢はね、双子の姉妹と寝ることなんだ」と僕の友人は至って真面目な顔をして言った。「もっと厳密に言うのなら双子の女の子から同時に同等な愛情を受け取ることだ」
僕は彼の話を聞きながら、空になったグラスの中にある氷を口に含んでコロコロと転がしてから「ふうん」とだけ応えた。
「おまえ、俺がつまらない冗談を言っているだけだと思ってないか?」
「もちろん」
「いや、これは至って真剣な話なんだぜ。俺は双子の姉妹と付き合える方法をずっと考えながら生きてきた」
僕は辟易するようにため息をついた。そして、自分のスマホを取り出し内カメラにしてから彼の顔の前に差し出した。
「ほら、自分の顔を見てごらんよ。君はいま酔っ払っているのさ。いつもは酔いが回ってきたら、こときれた人形みたいにぐうぐう寝てしまうのに今日は全然寝ないから不思議に思ってたけど、どうやら頭の中はもう寝てしまってるみたいだね。ただおしゃべりな口が勝手に動いているだけだ」
「ばかいえ。俺は全然シラフさ」そう言って彼はテーブルの上に置いてあった小皿を自分の人差し指の上に置いて器用にクルクルと回しだした。「ほら見てみなよ。なんなら小指でもう一枚回そうか?」
「オーケー。分かった。君は十分にシラフだ。だからもうそのお皿をテーブルに戻してくれないか」
僕は慌てて言うと、彼は満足したような表情をしてからお皿をテーブルに戻した。
「シラフだって分かったところで、俺がさっき言ったことについておまえはどう思う?」
僕は双子の姉妹から同等な愛を受け取りながら送る生活を想像してみた。それは靴下を左右で違う種類に履いてきてしまった時のような落ち着かない気分にさせた。
「君が本気で言っているならすごいことだと思うよ。身体的にも、精神的にも」と僕は言った。「少なくとも僕には向いてないみたいだ」
僕の答えに友人はいささか失望したようで、半分くらい残ったビールを勢いよく飲みきった後に店員を呼びつけてウォッカのショットを合計で四杯注文した。
「もちろん、君が四杯飲むんだよね?」
「何言ってるんだ。おまえのグラスが空いているからわざわざ親切に注文してやったんじゃないか」
僕は深いため息をついてから、自分の左手に付けられた腕時計を見てもう終電が過ぎてしまったことを確認した。
「なんで双子の姉妹と付き合いたいのか、考えの足らない僕に教えてくれないかな」
「おまえはフランボワーズ・カウベルが自分の趣味を好きな理由を簡潔に説明できたと思うか?」
フランボワーズ・カウベルの趣味は通り過ぎる通行人やクルマの特徴を片っ端からメモしていくことだった。彼の死後、自室の机からは夥しい量の不特定多数の人間のメモとあらゆるメーカーのクルマのメモが発見された。
「多分できないと思う」
「それと同じさ。好きなことに理由なんていらないなんてよく言われるが、あれは少し違う。正しくは好きなことの理由なんて説明するべきじゃないの間違いだ。ただ自分だけが分かっていればいい。そうは思わないか?」
僕はある程度の時間を空けてから頷いた。
「でも君は多少なりとも、双子の姉妹から同等な愛を受け取るって事を僕に共感して欲しかったわけだろう?」
「それはフランボワーズ・カウベルを共に愛好するものとして期待しただけさ」
「君はカウベルから悪い影響を受けてるようだ」
「それはおまえもだろう?」
それから僕たちは空に朝日が昇り初めて始発の時間を過ぎても酒を飲み続けた。気づいたときには僕たちは別れていて自分の部屋でぐうぐうと寝息を立てていた。
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